今日16日は、アイランドリーグ選抜チームの監督として福岡に来ています。福岡ソフトバンクとの交流試合がヤフードームで組まれているためです。パ・リーグは20日に開幕しますから、ソフトバンクにとってはシーズン前最後の実戦。総仕上げの相手として我々を選んでいただいたことは光栄ですが、指揮官としては楽しみよりも不安がいっぱいです。
 これまでアイランドリーグの選手たちはNPBの2軍と数多くの実戦を積んできました。結果も内容もほぼ互角の戦いを繰り広げ、選手も2軍相手なら対等にやれるという意識を持っているはずです。しかし、今回は違います。なんといってもソフトバンクの1軍メンバーが相手です。過去にフェニックス・リーグでポストシーズンに向けて調整中の1軍選手と対戦したことがあるといっても、その時とは状況が大きく異なります。開幕前は、どの選手も状態をピークに持って行こうと、目の色が変わってくるからです。

 川宗則、松中信彦、小久保裕紀、多村仁志……。名前だけでも気後れするようなメンバーに、アイランドリーグの若い投手陣が、どのくらい思い切って投げられるか。厳しいところを突かなくては勝負になりませんし、相手も練習になりません。少しでも弱いところをみせれば、けちょんけちょんにやられてしまうことも覚悟しなくてはいけないでしょう。

 というわけで今回の選抜メンバーの選考は非常に悩みました。若手に経験を積ませたい気持ちと、あまり相手に失礼にならないよう元NPBも含めた実績のあるメンバーで臨みたい気持ち。その両方のバランスを考えた構成にしたつもりです。特に新人で選んだ東弘明(徳島)、安田圭佑(高知)には、試合はもちろん、練習もよく観察して帰ってほしいと思っています。

 もちろん野球の試合である以上、最後まで何が起きるかわかりません。やる以上は勝利を目指しますし、ここでいい結果を残した選手は大きな自信をつかむでしょう。たとえ結果は伴わなくても、今の力を存分に発揮してくれれば、4月からのシーズンに生きてくるはずです。

 そんな僕も南海に入団した3年目に初めて1軍のオープン戦に帯同した時は、対戦するすべての相手が格上に映りました。完全に気持ちで負けてしまい、エラーは連発するは、三振はしまくるは……。散々な内容で、ついにある試合で3三振を喫し、ファームに落とされてしまいました。当時の僕は完全に壁にぶち当たった気分でした。

 そうは言っても、1軍で対等に戦えなくてはプロの世界では生き残れません。どうすればいいのか、僕は真剣に考えました。意識が変われば、練習への取り組み方も変わります。その結果、ファームで実績を残し、ようやく3年目のシーズンの最後に1軍デビューを果たすことができました。

 アイランドリーグの選手たちも、NPB1軍の厚い壁にはじき返されて気づくことも少なくないでしょう。いくら僕たちコーチ陣が口でNPBのレベルを説明しても、150キロ近くのスピードボールや、打者のパワー、テクニックは実際に対峙してみなくてはわからない部分がたくさんあります。本物の1軍レベルを体感して、「今のままでは、とても無理だ」と感じるか、「これならやれる」と手応えをつかむのか。いずれにしてもNPBで活躍するには彼らと互角に勝負できる力をつけなくてはいけません。

 今回、ソフトバンクには貴重な機会を与えていただき、感謝しています。経営面で苦しいニュースも伝えられるアイランドリーグですが、いい選手を育成することで、存在価値を高めていければと思っています。みなさんのご支援をよろしくお願いします。


定岡智秋 (さだおか・ちあき)プロフィール>: 高知ファイティングドッグス監督
 1953年6月17日、鹿児島県出身。定岡三兄弟(次男・正二=元巨人、三男・徹久=元広島)の長男として、鹿児島実業から72年、ドラフト3位で南海(現ソフトバンク)に入団。強肩の遊撃手として河埜敬幸(元長崎監督)と二遊間コンビを形成した。オールスターにも3回出場し、87年限りで現役を引退。その後、ホークス一筋でスカウトや守備走塁コーチ、二軍監督などを歴任。小久保裕紀、松中信彦、川崎宗則などを指導し、現在の強いソフトバンクの礎づくりに貢献した。息子の卓摩は千葉ロッテの内野手。08年より高知の監督に就任。現役時代の通算成績は1216試合、打率.232、88本塁打、370打点。






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