今春の実現が待望されたフロイド・メイウェザー対マニー・パッキャオ戦は、交渉の最終段階まで来て消滅。「スーパースターウォーズ」はひとまずお蔵入りとなり、全世界のファンを落胆させてしまった。
ただ、その代わりに、両雄はそれぞれウェルター級を代表する強豪を相手に「代替戦」を行なうことを発表。まず来週末にパッキャオが元IBF世界ウェルター級王者ジョシュア・クロッティと、さらに5月第1週にはメイウェザーが3階級制覇王者のシェーン・モズリーと対戦する。
(写真:カウボーイズガールとポーズをとるパッキャオは、近年の米ボクシング界では最大級の観客を動員することになりそうだ) どちらも「代役」などと呼ぶのははばかれるほど実力伯仲の好マッチアップ。ハイレベルな戦いの末、波乱の予感もほのかに漂ってくる。
そしてこの2試合が「準決勝」となり、勝者は今秋以降の「ファイナル」で直接対決することになるのか。これからしばらくの間、群雄割拠のウェルター級戦線は私たちを楽しませてくれそうな気配なのである。
◇3月13日 ダラス
WBO世界ウェルター級タイトル戦
マニー・パッキャオ対ジョシュア・クロッティ 豪華絢爛なカウボーイズスタジアムにて、約4万5000人の大観衆を集めて開催されることが濃厚なこの試合。クロッティのスタイル、パーソナリティが一般的な希求力に欠けることもあり、試合直前になってもパッキャオの存在感にばかり注目が集まっている感がある。
ただ堅実なスキル、標準以上のパワー、何より鉄のアゴ(KO負けは皆無)を備えたクロッティは恐ろしい相手である。過去にミゲール・コット、アントニオ・マルガリートといった強豪ともほぼ互角の激戦を繰り広げてきた。しかも1997年以来、この階級で戦い続ける真性ウェルター級だけに、さしものパッキャオも増量以降、最大の苦戦を味わう可能性もある。
(写真:クロッティは地味ながら手強い相手である) 終盤の失速グセが玉にキズのクロッティ。だが、この大一番で一念発起、フルラウンドに渡って手を出し続けたとしたら、とてつもない激闘の末にクロッティが生き残っても驚くべきではないのかもしれない。
しかし……毎回このように懐疑の声を浴びせられながら、すべてを突破してきたのがワンダーボーイ・パッキャオである。今回も前半にスピードを利してフラッシュダウンを奪い、中盤以降はアウトボクシングに転じて逃げ切る展開が最も濃厚だろうか。
いずれにしても、噛み合った好内容の試合となることは確実。打撃戦の末、最後には4万5000人の観衆と全世界のテレビ視聴者(日本でもWOWOWが生中継)が興奮に震えるような結末(=パッキャオの完全KO勝利)となることを期待しながら、スリリングな大舞台を待ちたいところだ。
◇5月1日 ラスベガス
WBA世界ウェルター級タイトル戦
フロイド・メイウェザー対シェーン・モズリー 最近ではやや珍しくなったアメリカ人ボクサー同士のビッグファイトに、特に黒人コミュニティは大いに湧いている。
しかもこの2人は、もう10年も前から近い階級で活躍しながら、なかなか対戦が具体化しなかった「戦わざるライバル同士」。プリティーボーイ、シュガーという耳障りの良い愛称を持つ両雄の激突は、「メイウェザー対パキャオよりも面白いファイトになるかも」という声すら少なからずある。
ラティーノ層の後押しがなければ観客動員、ペイパービュー売り上げが苦戦するのではという疑いもあったが、発売から15分で14000枚のチケットをすでに売り上げたという。今週火曜から開始されたプロモーションツアーでは両ボクサーがつかみ合いを演じる場面もあり(真剣だったかは疑問だが)、一般の興味をさらに煽った。この「準決勝第2試合」は、本番が近づくにつれてアメリカ国内ではかなりの注目度を集めることになりそうである。
(写真:メイウェザー(左)対モズリーはボクシングファン垂涎のカードだ) さて、肝心の試合は、いったいどういった流れとなるのか?
基本的にどちらもスピード型だが、パワーではモズリーが、ディフェンス力ではメイウェザーがやや上。ハイレベルな攻防になるだろうが、特に前半は両者ともにクリーンヒットは少ないかもしれない。
「一方的な展開にはならないだろうけど、やはりメイウェザーが接戦を抜け出すんじゃないか。モズリーは昨年1月にアントニオ・マルガリートを倒した後、ブランクをつくったのも痛かった。このレベルの試合では些細な試合感の鈍りが響くだろうし、元々ポイントの取り方の上手さではメイウェザーが上回るしね」
「ニューズデイ」紙のボクシング記者、マーカス・ヘンリー氏はそんな予想を話してくれた。筆者の見方もほぼ同じである。激しくスピーディなペース争いの末に、メイウェザーがフルラウンドを手堅くまとめる。115−113程度の僅差で、不敗王者の手が上がる。
ただ……それほど自信のある予想でもない。
メイウェザーのパンチでモズリーが深いダメージを受けることは考え難い。一方でいかにメイウェザーといえども、モズリーの波状攻撃を完璧にかわし切るのは至難の業だ。少なからず被弾するシーンもあるはずで、その時、未知数のプリティーボーイのタフネスが試されることになる。そこでメイウェザーがどんな反応を示すかは、筆者が推測できる範囲を越えている。
(写真:プロモーターとしてボクシング界の顔であり続けるデラホーヤも忙しい日々が続きそう) とにかく、近年稀に見るほど上質で、スキルフルなファイトとなることだけは間違いない。ファンにとっても一瞬たりとも目の離せない時間が続くはず。
そして終盤ラウンド――。メイウェザーが迎える「真実の瞬間」に、私たちはいったい何を目撃することになるのだろうか。
杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。
※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY※Twitterもスタート>>こちら
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