巨人にまたもや“育成の星”が誕生しようとしている。
今季、育成ドラフト1位で入団した星野真澄(BCリーグ・信濃)が宮崎キャンプで好評価を得た。
左のスリークォーターからストレートにカーブ、スライダー、カットボール、チェンジアップと多彩なボールを投げる。
ブルペンでの投球を一目見た原辰徳監督は「(育成選手から主力投手になった)山口(鉄也)を最初に見た時の雰囲気がある」と絶賛した。
現役時代は速球派左腕として鳴らし、キャンプ中、巨人の臨時投手コーチを務めた川口和久もこう褒めた。
「まず下半身がしっかりできていて、この時期なのに140キロ台後半のボールがどんどん投げられる。
ピッチャーが成功するかどうかのポイントは、バッターをのけぞらせるボールとかわすボールの2つを持っているかどうか。彼はどちらも持っている。何でよその球団が本ドラフトで指名しなかったんだろうと思いましたね」
他球団がノーマークだったのには理由がある。星野は社会人のバイタルネット時代、ドラフト候補と称されていた。順風満帆に思えた野球人生が一変したのは、社会人2年目のことだ。
「あれは都市対抗予選決勝の朝でした。胸が痛くて4時半くらいに目が覚めたんです。前兆なんて何もなくて、本当に突然のことでした。痛くて呼吸ができないし、おかしいなと」
胸の痛みをこらえて、決勝のマウンドに上がったが、わずか2回で降板。ベンチ裏で気を失った。
病院での診断結果は肺に穴が開く「気胸」。即入院して、手術を受けた。何とか復帰したものの、球のキレは戻らず、ドラフト会議で彼の名前が呼ばれることはなかった。
それでもNPBへの夢を諦めきれず、独立リーグへ。ここで元プロのコーチたちから指導を受けたこともプラスに働いた。
武器は右打者をのけぞらせるインコースの直球だ。
「狙ったコースにいけば、角度的にもそうそう前に飛ぶような球ではないと思っています」
さらに“かわすボール”としてチェンジアップを効果的に操る。
「シュートっぽく落ちるので、バッターは追い込まれて、それが頭にあるとインコースへの真っすぐに手が出なかったりするんです」
今後、彼が1軍で活躍できるかどうかは左打者をいかに封じるかにかかっている。左打者の胸元をえぐるボールはあるのか。
信濃で1年間、星野を指導した元横浜の島田直也コーチは「抜けて打者に当ててしまうことを恐れ、なかなか投げることができなかった」と指摘している。
巨人は、一昨年は山口、昨年は松本哲也と育成上がりの選手が新人王を獲得し、優勝に貢献した。
「人間、いつ死ぬかわからない。だから後悔のないように精一杯やりたい」
一度は地獄を見た男だけにハートの強さも申し分ない。貴重な掘り出し物と言えそうだ。
<この原稿は2010年3月21日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>
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