第1164回 1991年と重なる広島 最強投手陣&日本人4番でVへ

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 今や国民的関心事である「50‐50」(50本塁打・50盗塁)に挑んでいるのは、ドジャースの大谷翔平だけではない。セ・リーグで巨人と熾烈な首位争いを展開する広島も“大記録”にひたひたと迫っている。9月2日現在、48本塁打・50盗塁。「50‐50」まで、あと2本塁打。大谷より一足早く達成しそうだ。ワイドショーは、ぜひこちらも取り上げて欲しい。

 

 本塁打が減っているのは広島だけではない。このままのペースで推移すれば、今季は球界全体で前年比3割減の見通し。投手のレベルアップの他、ボールの反発係数、保管方法などが昨今の“投高打低”の理由として取り沙汰されている。

 

 好調広島を支えているのが12球団一の投手陣。2日現在、防御率2.24は両リーグトップ。失点は1試合平均2.55。単純計算だが、3点取れば勝てる可能性が高い。ゆえに1点の重みが、例年以上に増している。ミスをしても選手を責めず、負けても沈んだ表情を見せない新井貴浩監督の器量がチームに心理的安全性をもたらしている。

 

 既視感がある。1991年のペナントレースだ。この年の広島も打てなかった。88本塁打はリーグ5位。3ケタに乗せられなかったのは広島と横浜大洋だけだった。総得点の516もリーグ5位。翻って、防御率3.23はリーグトップ。失点466もリーグ最少で、クロスゲームを得意にしていた。接戦をことごとくモノにして、2位中日に3ゲ―ム差をつけて優勝した。

 

 貧打広島の象徴が4番の西田真二だった。4番を予定していたロッド・アレン、タイラー・リー・バンバークレオの両外国人が不振で、それまでは主に代打の切り札としてベンチに控えていた西田にお鉢が回ってきたのだ。

 

「他に4番がおらんのやからしょうがないやろう」。当時の監督・山本浩二の起用理由がふるっていた。「外国人が全くダメ。日本人で勝負強いヤツを探したら西田しかおらんかった。オマエは4番じゃない、4番目の打者やと。ホームランはええから、とにかく大事なところで打ってくれと。実際、大事なところでよう打ってくれましたよ」

 

 西田も心得たもので、4番ならぬ“4番目の打者”の仕事を全うした。「代打と同じで好球必打。甘い球がきたら、初球からでもいく。しかし追い込まれたら1球でも粘って次に回す。自分にも“オレは4番目や”と言い聞かせていました」

 

 今季も似ている。外国人野手は名前すら思い出せない。4番には堂林翔太、坂倉将吾、松山竜平、小園海斗、末包昇大、野間峻祥の6人が名を連ねた。「選手は使われながら成長しとる。あの時のワシもそうやったけど新井も、よう我慢して選手を使うとるよ。確かに91年に似てきたな」。ミスター赤ヘルからも、お墨付きを得た。ここら先はトラックレースだ。

 

<この原稿は24年9月4日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>

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