現在、交流戦真っ只中の日本プロ野球。セ・パともに上位3チームが激しいトップ争いを繰り広げていますね。なかでもパ・リーグの首位を走る埼玉西武は投手陣の安定感が光っています。24日現在、勝利数(岸孝之、7勝)、防御率(帆足和幸、1.30)、セーブ数(シコースキー、15セーブ)の主要3部門でのトップは西武の投手陣が占めています。
 もともと西武は投手王国。これまでも同球団から数々の好投手が誕生しています。しかし、昨シーズンは抑えの切り札であるグラマンを故障で欠き、プロ野球ワーストタイとなる14試合サヨナラ負けを記録。チームも4位に低迷し、今シーズンはリリーフ陣の強化が最重要課題とされていました。今シーズンもグラマンの復帰の目途が立たず、新加入の工藤公康投手もキャンプの途中から2軍調整となるなど、やはり先発投手の後がウィークポイントと見られていたのです。そこで救世主として現れたのがシコースキーでした。

 私自身、パ・リーグの優勝候補に西武をあげた理由が強力な打線と、投手力としては後ろが多少不安はあったものの、シコースキーの日本での実績と経験を見越してのものでした。とはいえ、0勝2敗15セーブ、防御率1.27という成績は予想以上。まさに守護神としてチームに大きく貢献していますね。

 シコースキーは150キロ台のストレートとキレのあるスライダーが持ち味のピッチャーです。コースにしっかりと投げ分けられるコントロールも持っています。ところが、「打ってみろ」とばかりに力任せに簡単にストライクを取りにいこうとするところがあり、あっさりと打たれてしまうケースも少なくありませんでした。しかし、今シーズンは配球にも気を遣いながら、低めを意識して丁寧に投げている印象があります。

 こうした変化の理由の一つには西武という球団に移籍したことが大きいのではないかと思います。というのも、シコースキーは150キロ台のボールを投げられる剛腕投手ですから、おそらくこれまでは「自分が一番だ」と自信満々で投げていたことでしょう。しかし、西武には今や日本を代表する涌井秀章や岸、さらにはメジャーリーグでも実績のある石井一久を筆頭にレベルの高いピッチャーがたくさんいます。ですから、彼らのピッチングを見て、日本野球を改めて学ぶことができたのではないでしょうか。そんな謙虚さが今の好成績に結びついているのではないかと思うのです。

 シコースキーはこれまで先発、中継ぎ、抑えとさまざまなポジションを経験していますが、やはり彼には抑えが最も適しています。150キロという球速はもちろんですが、彼は気持ちで投げるタイプのピッチャー。ですから、短いイニングの方が力を発揮しやすいのです。今後、不安なのは好成績が自信を通り越して過信となってしまった時に安易に力勝負をしてしまうようになること。そうではなく、きっちりとコースを突いてアウトを取りにいく今のスタイルを維持していってほしいと思います。

 さて、急成長を遂げたリリーバーといえば、阪神の期待の若手、2年目の西村憲です。ここ最近は疲労からか打たれるケースも出てきましたが、それでも24日現在、23試合に登板し、4勝0敗という成績は立派です。転機となったのは昨秋に参加したアリゾナ州の秋季リーグに参加したことです。彼は140キロ台後半のストレートと縦に変化するスライダーが武器。スライダーはコースに投げ分けられ、ストレートと腕の軌道が全く同じなので、打者も見極めにくいのです。それに加えて、秋季リーグで覚えたチェンジアップがピッチングの幅を広げてくれました。そして米国での経験が自信となったことで、腕が思いっきり振れているのだと思います。

 しかし、これからが彼にとっては正念場でしょう。というのも、シーズンを通して投げたことがないため、やはりスタミナが心配です。実際、これまでは左打者の懐を攻めるピッチングができていましたが、最近では少し甘くなってきています。それが痛打される要因のひとつとなっているのです。スタミナをつけるとともに、コントロールがいいからこそ、過信せずに慎重にコースを突いていって欲しいと思います。

 また、長いシーズン、調子がいい日ばかりではありません。調子が悪いからといって打たれるようでは首脳陣からの信頼は得られません。例えば、通常は145キロのスピードが出るのに、調子が悪い日は140キロ前半しか出せないこともあります。単にそのまま投げていては、打者は打ちやすく感じるでしょう。ですから、そう感じさせないテクニックが必要です。例えば私が現役時代にはリリースポイントをいつも以上に前にするようにしてボールに角度をつけたり、フォーシームをツーシームにかえて投げたりしていました。とにかく打者に「嫌だな」と思わせることが重要です。西村も経験を糧にして、どんな状態でも抑えられるリリーバーになってほしいですね。素材としては近い将来、藤川球児の前を任せられるセットアッパーになる可能性を大きく秘めた期待のピッチャーであることは間違いありませんので、今後に注目したいと思います。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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