イチローがメジャーリーグに行った後、日本における“安打製造機”といえば、彼をおいて他にはいない。
 東京ヤクルトの青木宣親である。セ・リーグ最多(当時)のシーズン202安打を記録し、大ブレイクした05年以降の打率と安打数は次のとおりだ。

05年 3割4分4厘 202安打
06年 3割2分1厘 192安打
07年 3割4分6厘 193安打
08年 3割4分7厘 154安打
09年 3割3厘 164安打

 この5月26日、監督の高田繁が成績不振を理由に辞任。それまでヘッドコーチだった小川淳司が指揮を執るようになってから、従来の打順であるトップに戻った。本人にとってもチームにとっても原点回帰ということか。

――1番と3番、どっちが好きか?
 単刀直入に本人に訊ねた。
「タイプ的には、もう間違いなく1番だと思うんです。でも、やりがいという点では3番ですね。3番を任されたことで、すごく成長できた部分がある。野球選手としての幅も広がった気がしますし……」
 日本代表にあっても北京五輪と第2回WBCで3番を務めた。足があり、率も残せることに加え、勝負強い。リードオフマンが適職であることは承知しつつも、「トップに戻すのはもったいない」と思うのは私だけだろうか。
 青木のバッティングの特徴はスイングにおいてフラット(水平)な状態の時間が一般のバッターに比べて長いことである。
 もちろん、これは意識的にやっている。

 ヒントをくれたのは前監督の古田敦也である。
「オマエ、なんで打てないかわかってるか?」
「……」
「バットをフラットに振ってないからなんだよ」
 極端に言えばダウンスイングはV字の軌道を描く。バットをボールに向かって振り下ろし、強烈なインパクトを与えることで打球に力強さを生む。
 青木式のフラットスイングは、かたちでいえば逆台形か。底辺、いわゆるスイングがフラットな状態で推移している時間が長く、必然的にバットがボールをとらえる確率は高くなる。
 前者がボールを「点」でとらえるのに対し、後者は「線」でとらえるということもできるだろう。
 カットボールやツーシームなどバッターの手許で変化するボールを多投するピッチャーが多くなった昨今、こちらの方が時宜にかなっているのは言うまでもない。

「野球界には未だに“バットを上から振れ”という指導者がいますが、それは今の時代においても正しいのか。まず常識から疑ってみることが大切だと思います」
 日本を代表する“安打製造機”のセリフだけに、プロアマを問わず指導者と名の付く者は噛みしめてみる必要がある。

<この原稿は2010年6月20日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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