一流選手はデビュー戦に強い。今回はそのメカニズムについて分析してみたい。
 エンゼルスの松井秀喜が赤いユニホームに身を包んだ初のゲームでタイムリーヒットとホームランを放った。

「勝って良かったし、その中で貴重な点を入れられて良かった。正直うれしい。このチームを去年と同じところ(世界一)に行けるように頑張りたい」
 気の早い話だが、2球団でのワールドシリーズMVPとなれば「ミスター・オクトーバー」の異名をとったレジー・ジャクソン以来となる。最近はポストシーズンの期間が長くなったため、松井を讃えるとすれば「ミスター・ノーベンバー」だ。実力と運を併せ持つ松井だけに「もしかするともしかするのでは……」という気になってくる。

 日本人メジャーリーガーのパイオニアといえば野茂英雄だ。彼もデビュー戦に強かった。
 まずはメジャー初登板となったジャイアンツ戦。野茂は5回を1安打無失点に封じ、ローテーション入りを確実にした。
 あのゲームのことは未だに忘れられない。ピンチの場面でバリー・ボンズやマット・ウィリアムスといったメジャーリーグを代表するスラッガーが登場するたびに肝を冷やしたものだ。
 野茂は6年後、レッドソックスに移籍する。移籍後初のゲームで、野茂は驚くべきことをやってのける。自身2度目のノーヒットノーラン。ア・ナ両リーグでの無安打無得点試合達成はメジャーリーグ4人目の快挙だった。

 最近では松坂大輔がそうだ。入札金、年俸(6年契約)合わせて1億ドル(約120億円)の移籍劇だったこともあり、彼のデビュー戦にはボストンのみならず全米のメディアの注目が集まった。
 しかし、心配は無用だった。松坂はロイヤルズ相手に7回1失点の好投で、メジャーリーグ初勝利を飾ったのだ。
「初登板で緊張しなかったのか?」との報道陣の質問に松坂はこう答えた。
「自分にとって待ちに待った舞台ではあるんですけど、自分でもビックリするくらい普通に試合に入れました」

 なぜ一流選手はデビュー戦に強いのか、それはたぐい稀なる集中力の為せる業だろう。プレッシャーを砥石にして、さらに精神を研ぎ澄ませていく術を彼らは知っている。こうした一流選手たちから、私たちが学ぶことは少なくない。

<この原稿は2010年6月号『りらいあ』に掲載されたものです>

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