安倍晋三氏以降、ほぼ1年に1度の割合でコロコロ入れ替わる総理大臣に比べればまだマシだが、1期2年での交代はあまりにも短い。サッカーの試合にたとえれば、まだ前半が終了したところだ。本人も不完全燃焼の思いが強いのではないか。
 先の評議員会と理事会で退任の決まった犬飼基昭前日本サッカー協会会長のことだ。この2つの重要な会議に犬飼氏の姿がなかったのは、どう見ても異様だ。
“犬飼降ろし”の背景には強引な協会運営があったと見られている。その代表的な例がJリーグの「秋春制」への移行だ。この件に関しては鬼武健二前Jリーグチェアマンと激しいバトルを繰り広げ、降雪地のクラブを巻き込んで大論争に発展した。今なお着地点は見えない。

 では新会長に就任した小倉純二氏の意見はどうか。
「季節にかかわらず試合のできる施設があることに越したことはない。でも現実には北国には設備がない。そういうことが可能であれば絶対に(秋春制で)やるべきだ」。犬飼氏ほど急進的ではないが小倉氏も「秋春制」への移行を支持している。要はその進め方だ。
 誰もが必要だと認めつつ、その手続きを誤れば大ヤケドを負う。だから深入りはできない。何やらこの問題は政権与党における消費税率の引き上げに似ている。

 税率を引き上げる前に歳出の無駄を削減するなどやるべきことがあるだろうとの意見は一見、的を射ているように感じられるが、そう言い続けていったい何年が過ぎたのか。本質的な議論を避け、先送りを続けるうちにこの国の財政はいよいよ危機的な状況に陥ってしまった。
 サッカー界はこれを反面教師にすべきだ。犬飼氏も小倉氏も「春秋制」より「秋春制」がベターであるという点では一致している。犬飼氏はそれをやや強引に進めようとして地方の反発を招き、失脚した。とはいえ、改革の方向性そのものまでが否定されたわけではない。依然として誰かが手をつけなければならない問題なのだ。

 幸い小倉氏は経験豊富で交渉能力にも長けている。各国、各地域の利害が衝突するFIFAという伏魔殿で“国益”を拡大させた手腕はダテではない。北国の施設面が移行を阻害する最大の障壁なら、これをどう解決していくか。その道筋の描き方に注目したい。

<この原稿は10年7月28日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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