プロ野球における最年長勝利投手記録は阪急で活躍した浜崎真二の48歳4カ月である。
 1950年5月に達成したものだから、もう今から60年以上も前の話だ。

 浜崎真二と聞いて、勇姿がサッと思い浮かぶのは若くても75歳以上くらいの方だろう。
 アマチュアでは慶大、満州クラブで活躍した。甲子園には広島商と神戸商で2度出場している。<こんな記録を持っているのは、甲子園史上ぼく一人だと思う>。自著『48歳の青春』でそう述べている。
 速球派のサウスポーとして通算5勝(5敗)をあげている。

「ぜひ工藤さんに浜崎真二さんの記録を破って欲しい」
 開幕前に、こうかたったのが埼玉西武の渡辺久信監督だ。
「工藤さん」とは47歳のサウスポー工藤公康のこと。浜崎真二の記録を破るためには、来年もプレーしなければならない。
 西武の先輩だからという理由で横浜を解雇された工藤を獲得したわけではない。
 渡辺が球団に「純粋に戦力として欲しいピッチャーがいます」と希望を口にした背景には、次のような理由があった。
「普通、歳をとってくると下半身が衰えて使えなくなる。ところが、工藤さんの投げ方をみていると下半身の体重移動にしろ、足をあげてからのタイミングの取り方にしろ、昔と変わっていないんです」

 しかし、開幕前に工藤は左ヒジを故障。このままでは浜崎真二の記録を破るどころか来年の契約も難しいだろう。
 と、朗報が届いた。球宴前に1軍に昇格し、7月20日の福岡ソフトバンク戦で今季初登板を果たした。
 開幕前に工藤は語っていた。
「先発がいないからと言われれば行くし、点差が開いた場面で1イニングだけ投げてくれないかと言われれば喜んで投げます」
 今年、そこそこの成績を残せば、来季、大記録達成の期待が高まってくる。
 不可能を可能にしてこそ“中年の星”である。

<この原稿は2010年8月9日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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