オールスターゲーム当日の7月13日、ヤンキースの名物オーナーとして君臨してきたジョージ・スタインブレナー氏が亡くなった。
 そのため球宴は「ザ・ボス」との別れを惜しむ舞台に変貌。デレック・ジーター、アレックス・ロドリゲスらヤンキースの選手たちまでが、急きょスピーチの壇上に立つこととなった。
 そしてその後、後半戦が始まっても、ニューヨークではさまざまな追悼イベントが続行。ヤンキースの選手たちは「GMS(ジョージ・M・スタインブレナー)」と書かれた喪章を胸に付け、残りシーズンの戦いに臨んでいる。
(写真:ヤンキースタジアムの右翼席にはスタインブレナー氏を追悼するバナーが掲げられている)
「やっぱり今シーズンもヤンキースが“運命のチーム(the team of destiny)”なのかな……」
 前半戦をMLBベストレコードで終えたこともあって、当時はそんな声が記者たちの中でも盛んに囁かれたものだった。
 新球場元年を鮮やかな完全優勝で飾ったのが昨年。それに続き、亡きオーナーの墓前に新たな優勝トロフィーを捧げるべく、見えない力に支えられたヤンキースが今季もこのまま突っ走るかと思われたのだ。

 ただその後、昨季王者の足並みは少しずつ揺らぎ始めている。オールスターブレイク以降の32試合で19勝14敗。特に8月に入ってからは9勝9敗と崩れ、17日には同地区の強豪であるレイズに再び勝率で並ばれてしまった。
 多くの誤算に見舞われながら、何とか戦線に喰らいついてきた宿敵レッドソックスも、6.5ゲーム差の3位に付けている。つまりヤンキースは依然としてメジャー1の成績を残しながら、地区優勝どころか、まだプレーオフ進出すら確定的とは言えない位置にいるのだ。

 そして不吉なことに、ここにきて主力選手の中から故障者が少しずつ目立ち始めている。8月中旬時点でアンディ・ペティート、A・ロドリゲス、ランス・バークマンが離脱中。さらにホルヘ・ポサダ、ニック・スウィッシャーらも細かなケガで休養を取るケースが増えている。
 それぞれ、復帰に時間がかかるほどの故障を負っているわけではない。ただ、もともと必要不可欠の主力(A・ロドリゲス、ペティート、ポサダ、ジーター、マリアーノ・リベラ)の大半が35歳以上の高齢なだけに、気になる兆候ではある。
(写真:「ザ・ボス」と親交の深かったジーターも決意を新たにしているはずだ)

 振り返れば実は昨季も、「ヤンキースからいつか主要なケガ人が出るはず」と予想する声は少なくなかった。そんな悲観論を尻目に、ほぼ全レギュラーが自己最高レベルの成績を残し、あまりにも順調にワールドシリーズに到達。本当に運命に導かれているかのようで、少々でき過ぎの感があったのは事実だった。
 迎えた2010年。長く心配されたケガ人続出がついに現実のものとなり始めている。それによって不安が囁かれ始めた嫌なタイミングで、ヤンキースはこれから2連覇に向けての勝負どころに差しかかることになる。

「これ以上の補強策は考えていない。現在のロースターが今年のチーム。もちろん全員が健康であるに越したことはないが、そうはいかないものだ。しかし王者に相応しいチームとは、何があっても乗り越えるものなんだ」
 ブライアン・キャッシュマンGMはそう語り、現行ロースターへの信頼を強調してはいる。だが、現時点で懸念材料を数え上げていったら枚挙に暇がないのも事実だ。先発陣はエースのCC・サバシアこそ快調だが、ペティートの離脱もあって確固たる2番手がおらず、最後までチームを支え切れるのか。ロドリゲス、ポサダ、ジーターら長年の主軸が揃って自己最低レベルのシーズンを過ごしている中で、打線は相手の投手レベルが上がるプレーオフでも必要な得点を挙げられるのか。
(写真:A・ロッドも故障の多い厳しいシーズンを過ごしている)

 勝ち方を知ったヤンキースがこれから先、ワイルドカードまで逃すことは考え難く、多少は苦しみながらもプレーオフには進出してくるだろう。ただ問題はその先。特に今年はレイズ、レンジャーズの評判がかなり良いだけに、秋の戦いは昨年ほど容易にはならないはずである。
 具体的には何とか地区優勝を勝ち取って、プレーオフ1回戦(ディヴィジョンシリーズ)では与し易い中地区のチーム(ツインズが有力)と対戦したいところ。それゆえに、たとえこれから先にプレーオフ進出が確実になったとしても、レギュラーシーズンの戦いは最後まで重要な意味を持つことになる。

 いずれにしても、ほぼすべてがスムーズだった昨年とは一線を画し、今秋のヤンキースは土俵際に追い込まれる場面が必ず出てくるはずだ。緊張感に満ちたドラマチックな道程となることは必至だ。
 しかしキャッシュマンの言葉通り、ヤンキースが「王者に相応しいチーム」であれば、この試練も突破できるのだろう。もしも彼らがスタインブレナー氏の想いを背負った「運命のチーム」であるならば、すべてを乗り越え、堂々の2連覇を達成するに違いないのだ。
 2カ月後には、すべての答えが出る。スリリングな予感とともに、2010年シーズンのクライマックスまで、もうあと僅かである。
(写真:2年連続で優勝トロフィーにたどり着くことができるか)


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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