4年前の前回は日本で開催されたバスケットボールの世界選手権が、今年はトルコを舞台に8月28日より開幕している。
 今大会も注目はやはりNBA選手たちがロースターにずらりと揃ったアメリカ代表。2年前の北京五輪では見事に金メダルを勝ち取ったものの、この世界選手権に関しては、彼らはもう随分長く栄冠から見放されている。
 バスケの本場・アメリカの代表が最後に優勝を飾ったのは、なんと16年前の1994年。この屈辱的な空白を打ち破るために、今大会にも必勝態勢で臨んでくると思われたのだが……。
(写真:レブロン、コービーらが不在の今大会、「アメリカの顔役」は21歳のケビン・デュラントだ)
 しかしロースター表を見渡すと、そこにはコービー・ブライアント、レブロン・ジェームズという現役2大巨頭の名前は含まれていない。
 ドウェイン・ウェイド、ドワイト・ハワード、カーメロ・アンソニーらも入っていない。さらにクリス・ポール、デロン・ウィリアムスといった新進気鋭のスターたちまでが不在。結局、現役最強の人員が揃ったと言われた北京五輪の代表メンバー12人全員が、今大会の出場を辞退したのである。

 NBAのオフシーズンの間に国際大会に臨むとなると、来季開幕までの休養期間の大半を犠牲にすることになる。特にレブロンやウェイドなどはFA戦線で大変な騒ぎを味わった直後。そう考えれば、北京で仕事を果たしたスーパースターたちが、ここでしばし休養したいと考えたのも無理もないことだったのだろう。

 おかげで今大会のアメリカは、まったく新しいチームで本戦に臨むことを余儀なくされた。代わりに集められたメンバーの中で、過去に国際試合の出場経験があるのはチャンシー・ビラップス、ラマー・オドムという2人のベテランのみ。
 12人のロースターのうち半分の6人が22歳以下。特にガード陣の中で中心となるデリック・ローズは22歳、フォワードの大黒柱ケビン・デュラントはまだ21歳の若さである。その他、ラッセル・ウェストブルック、ルディ・ゲイ、エリック・ゴードンらも確かに未来のNBAを支えていくだけのポテンシャルを秘めたヤングスターだが、現時点では全米的な知名度は低い。
(写真:ドワイト・ハワードも不参加のためアメリカ代表のインサイドは極めて人材不足となってしまった)

 世界バスケ通で知られる「ESPN.COM」のクリス・シェリダン記者は、今回のアメリカ代表を「Bチーム」と呼んでいる。
 実際に、オールスター経験者は4人のみ。しかもオドムやケビン・ラブのように所属チームのレギュラーすら怪しい選手が含まれているのだから、確かに「代表」というより「選抜チーム」という形容の方がふさわしく思えてしまう。

 それでも依然として世界最高のタレント集団には違いない。世界選手権前の予想オッズでも優勝候補筆頭に推されてはいる。
 ただライバル国からは、今回のアメリカは「付け入るスキがある相手」と考えられていたのも事実である。実際に早い段階で敗北を喫する可能性を指摘する声は、米国内ですら少なくなかった。

 そして案の定、予選リーグ3戦目となった8月30日のブラジル戦で、アメリカは大苦戦を味わった。積極果敢なブラジルの前に、前半を43−46とリードされて終了。後半に追い上げて逆転するも、引き離すことはできず、最終Qもギリギリまで追い詰められた。
 結局は70−68で何とか辛勝。だがもし残り3.5秒からのフリースロー2投をブラジルが決めていれば、同点でオーバータイムに突入するところだった。いや、そのフリースローが外れたこぼれ球を拾われて、3点シュートでも決められていれば、アメリカは敗北を味わうところだったのだ。

 勝負はまさに紙一重。試合後、アメリカのマイク・シェシェフスキーHCはこの苦戦が貴重なレッスンであったと強調していた。
「まだ2、3週間しか一緒に過ごしていないから、苦境の際にこのチームがどんな反応を示すか分からなかった。しかし今夜、それを知ることができたよ」
 コーチの言葉通り、確かにアメリカ代表は「接戦でも慌てず対処してみせた」と考えることもできる。そして発展途上の若きロースターは、苦戦を味わったことでよりチームとしての結束を強くしていくのかもしれない。

 だが、その一方で、「今大会のアメリカはいつでも負け得る」という戦前からの見方が、このブラジル戦で実証されたと見ることもできる。若き代表が予選の段階で早くも脆さを垣間見せた事実を、不吉と感じた国民は多かったことだろう。

 6カ国のうち4チームが勝ち抜けできるイージーな予選リーグは間もなく終わり、9月4日から一発勝負の決勝トーナメントが開始される。
 アルゼンチン、ブラジル、ギリシャ、フランス、スペインらの列強は、揃ってベスト16に駒を進めてきた。アメリカにとっても、息の抜けない「本当の勝負」はこの決勝トーナメントからスタートする。
(写真:スペインの至宝リッキー・ルビオも世界選手権制覇に闘志を燃やす)

 伸び盛りの選手が揃ったアメリカ代表は、コーチが予期する通りの勝負強さを今後も発揮できるのか? スーパーエース役の期待がかかるデュラントは、その役目を安定した形で果たせるか? 「Bチーム」と揶揄された経験不足のロースターは、アルゼンチンやスペインのような強豪を倒すために必要な「Aランクのプレー」を大一番で誇示することができるのか……?

 不安材料が多いだけに、その行方はより興味深い。アメリカがダントツの本命チームではないがゆえに、今回のトーナメントは逆にスリリングで面白いとも言える。1994年以来の頂点に向けて、ヤング・アメリカンたちの一世一代の大勝負は、間もなくクライマックスを迎える。
(写真:守備力に秀でたアンドレ・イグダーラもアメリカにとって重要な選手の1人)

 世界一のバスケ国の称号は、アメリカに戻ってくるのかどうか――。9月12日、イスタンブールでの決勝戦を終えるころには、すべての答えが私たちの前に提示されているはずである。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY
※Twitterもスタート>>こちら
◎バックナンバーはこちらから