あれから、もう1週間以上が過ぎたというのに、思い出すと、いまも手に汗を握る。闘う両者が気持ちの熱さを観る者に伝えきった名勝負だった。
 8月22日、両国国技館で開催された『SRC14』のメインイベント、ジョルジ・サンチアゴ(ブラジル)×三崎和雄戦のことである。
(写真:昨年1月の試合は三崎が5ラウンドTKO負け。1年7カ月ぶりの再戦だった)
 結果はご存じの通り、サンチアゴの5ラウンドTKO勝ち(タオル投入)。終了のゴングまで、わずか29秒を残して三崎は力尽き、リベンジを果たすことはできなかった。だが、そこまでに至る試合内容は凄絶だった。

 2ラウンド、三崎がサンチアゴの頭部をキャッチした。フロント・チョークスリーパーが決まったかに思えたが、サンチアゴはかろうじて脱出。そして3ラウンドと4ラウンドには互いにダウンを奪い合った。ほぼ互角の攻防だったが、4ラウンドにサンチアゴが三崎のパウンドを逃れようとロープ外にエスケープ。ここでレッドカード(警告)を出されている。それを考えれば、残り29秒をしのぎ切れていたなら、三崎が勝者となっていた可能性は高い。だが、サンチアゴは土壇場で勝負強さを発揮した。

 試合はどこで決着がついてもおかしくなかった。しかし、最終ラウンドまで持ち込まれたのは、両者が「絶対に負けたくない」という強い気持ちを宿し続けたからだろう。サンチアゴの勝利が決まり、彼の腰にベルトが巻かれた後も席を立つ者は少なく、多くのファンが2人に拍手を送っていた。

 この2年間、三崎にはさまざまなことがあった。
 2009年1月、『戦極(後にSRCに改称)』のリングでサンチアゴの初対決に敗れ、その後に公務執行妨害で逮捕された。車の運転中に携帯電話を使用していたところを警察官に見つかり、停止を求められるも、無視して逃走したためだった。この件で、懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を受けている。

 その年の11月には、長く所属した『GRABAKA』から独立してフリーに。大晦日『Dynamite!!』のリングに上がるが、この復帰戦でメルヴィン・マヌーフにTKO負けを喫してしまう――。
 2007年の大晦日『やれんのか!』のリングで秋山成勲に逆転KO勝ち(後に裁定はノーコンテストに)を収め、広く名を知られるようになった三崎だが、ここ2年間は、悪いこと続きだった。

 だが、闘いに対する気持ちを切らしはしなかった。だからこそ敗れはしたものの、観る者の心を揺さぶる熱い闘いを三崎はできたのだろう。『戦極』から数えて『SRC』はこれまで14回、大会を開いてきた。その中で最高の名勝負は、今回のサンチアゴ×三崎戦だったように思う。いま、SRCのリングで誰の試合を見たいかと問われれば、答えは北岡悟でも泉浩でも石井慧でもなく、三崎和雄である。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)ほか。最新刊『情熱のサイドスロー〜小林繁物語〜』(竹書房)が好評発売中。
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