夏の甲子園準決勝。興南対報徳学園戦。4回が終わって0対5.ゲームとしては、ほぼ一方的だ。
 しかし「どこかで引っくり返すんじゃないかな」という予感があった。
 5回に3点、6回に1点、7回に2点を奪い6対5。そのまま興南が逃げ切った。

 決勝は東海大相模相手に13対1と圧勝。4回に一挙、7点を奪った時点で“勝負あり”だった。ボクシングでいえば興南の4回KO勝ちか。
 感心したのは4回、7本のヒットのうち3本をセンター前に集めたことだ。バッティングの基本はセンター返し。よく鍛えられたチームだった。

「沖縄に優勝旗がこんうちは戦争はおわらん」
 それが07年に他界した沖縄球界の名将・栽弘義の口ぐせだった。
 栽は沖縄水産を率い90、91年と連続して夏の決勝にコマを進めたが、あと一歩のところで涙をのんだ。この頃の沖縄勢には悲壮感が漂っていた。
 ところが最近はどうだ。センバツでは今年の興南を含め3度も紫紺の大旗を手にしている。
 残されたのは深紅の大旗だけだった。
 すなわち沖縄勢の選手権制覇は時間の問題だったのだ。

 沖縄勢躍進の背景にはプロ野球球団の進出があげられる。目下、北海道日本ハム、阪神、広島、オリックス、千葉ロッテ、東京ヤクルト、中日、横浜、東北楽天の9球団がスプリング・トレーニング(春季キャンプ)を張っている。来年からは新たに巨人が加わる。
「プロから直接、教わることはできないが、練習のやり方など学ぶ点は多い。球場の施設も充実してきた」
 沖縄在住のアマ野球関係者はそう語っていた。
 総じて、沖縄には小柄な選手が多いが体幹が強く、体にバネがある。ひと言でいえば野性味のある選手が多い。
 沖縄が野球王国と呼ばれるのも時間の問題か。

<この原稿は2010年9月13日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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