巨人、中日と首位争いを演じる阪神。好調のチームを支えるのは2人の外国人選手だ。
マット・マートンとグレイク・ブラゼル。マートンがリーグ3位の3割4分6厘という好打率でチームを牽引すれば、ブラゼルはリーグトップタイの32本塁打と大砲ぶりを発揮している。(記録は7月28日現在)
 柔のマートン、剛のブラゼル。そんなイメージだ。

 阪神の外国人バッターが2人揃って大活躍するのは珍しい。翻って失敗例は山のようにある。
 たとえば1994年に来日したロブ・ディアー。メジャーリーグ通算226本塁打の長距離砲だったが、日本では70試合に出場したのみで、打率1割5分1厘、8本塁打、21打点。「舶来の大型扇風機」と揶揄された。
 阪神はスプリング・トレーニング(春季キャンプ)を高知県の安芸市で張るが、この時のにぎわいぶりは凄かった。
 ディアーのバットから放たれた打球は、まるでピンポン球のように場外に消えていく。そのため安芸市営球場には急遽、外野に「ディアーネット」が設けられた。関西のメディアは「50本以上のホームランは確実」と太鼓判を押した。
 しかし、ディアーには明らかな欠点があった。ストレート系のボールには滅法強いが、変化球に全くついていけないのだ。キャンプの時点で私は開幕してすぐのスランプを予想した。案の定だった。
 これはディアーが悪いというよりも、目をつけたスカウトに問題があった。阪神は2億7千万円もの大金を丸々、ドブに捨ててしまった。

 それでもまだ懲りないのが阪神である。97年、今度はバリバリのメジャーリーガー、マイク・グリーンウェルを獲得した。
 なにしろレッドソックスで12年間プレーし、通算打率3割3厘を残したほどの好打者。日本で活躍できないほうがおかしい。
 ところが、またしても阪神は裏切られる。グリーンウェルはディアーよりもひどいわずか7試合の出場で、打率2割3分1厘、0本塁打、5打点。期待が大きい分、ファンの失望も大きかった。
「グリーンウェルには絶対に手を出すべきではない」
 私にこう語ったのは、あるメジャーリーグのスカウトだった。
「彼は“恐妻家”でワイフに頭が上がらないんだ。そのワイフはボストンの街をこよなく愛しており、日本に行くのを嫌がっている。
 もしグリーンウェルが来日したとしても、すぐにボストンに帰るはずだよ。なぜならワイフをひとりにしておくのが心配だからね」
 残念ながら本当にその通りになってしまった。ちなみにグリーンウェルの年俸は3億6千万円。退団の際に両者は年俸の支払いについて話し合いをもったが、球団は半分しか回収することができなかった。

 そんな人を見る目のない球団が、なぜ今季はマートンのような“当たりクジ”を引き当てたのか。
「アンディ・シーツの存在が大きい」
 そう語るのは、ある球団関係者。
 05年から07年にかけて阪神でプレーしたシーツは昨季より駐米スカウトとなり、マートンに声をかけたのだという。
 シーツには特別ボーナスとして10万ドルくらい払ってもいいかもしれない。

<この原稿は2010年10月号『フィナンシャルジャパン』に掲載されたものです>

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