高橋尚成、五十嵐亮太と2人の日本人リリーバーを擁するメッツが、今季後半戦は苦しい戦いを強いられている。
 開幕直後こそ予想外に好調で、6月27日の時点では貯金11(43勝32敗)。しかしオールスター以降は26勝33敗と崩れ、プレーオフへの夢も儚く消えた。
 そんな中で高橋はリリーフ&先発に活躍し、シーズン終盤にはクローザーに抜擢。先発で予想外の11勝をマークして来たR.A.ディッキーと並び、低迷するチーム内で最大の嬉しい誤算になってはいる。ただ、そんな高橋の奮闘も、悪い流れを変えるまでにはもちろん至らなかったのが現実である。
 地元ニューヨークの期待を裏切り続けるメッツ。9月に入ってからはガラガラのスタジアムで、無意味な消化ゲームを寂しくこなし続けているのだ。
(写真:五十嵐と高橋もメッツを救うまでには至らなかった Photo by Kotaro Ohashi)
 そんなメッツの無惨な2010年を象徴するかのようなニュースは、8〜9月に続けて訪れた。
 まず8月11日に、クローザーの“K・ロッド”ことフランシスコ・ロドリゲスが、球場内の家族ラウンジで暴行を振るった容疑で逮捕された。しかも自らのガールフレンドの父親を殴ったそのケンカ沙汰で、右手親指の腱を痛めていたことまで判明。直後に手術を受けて今季の復帰は絶望となり、まさに「泣きっ面に蜂」の無様な顛末となってしまった。

 さらに9月10日には、今度はエースのヨハン・サンタナが左肩に手術を受ける必要があることが発覚。「思ったよりも深刻で驚いた。復帰が(来年の)4月になるか10月になるかはわからない」という本人の言葉通り、来季開幕に間に合うかすら確かではない厄介な故障だという。今季も2点台の防御率を残してきた最強左腕の長期離脱は、ファンと関係者に再び頭を抱えさせる羽目になった。

 今から4年前の2006年。その年のMLBベストレコード・タイの成績でナショナルリーグ東地区を制した時には、今後しばらくメッツの時代が続くと多くの人が思った。デビッド・ライト、ホゼ・レイエスという生え抜きの三遊間を看板に据えたチームは、それだけの実力と魅力を秘めているように見えたのだ。
(写真:デビッド・ライト(左)とミナヤGMはメッツに黄金時代をもたらすと期待されたのだが……)

 だが、その年のナ・リーグ王者決定シリーズ第7戦でカージナルスに敗れ、ワールドシリーズ進出に失敗。それ以降は、まるで運に見放されてしまったかのようなシーズンが続いている。07〜08年は2年続けて終盤まで地区首位に立っていながら、最終162試合目に敗れてプレーオフ逸が確定。

 続いて昨年はレイエス、ライト、サンタナ、カルロス・ベルトランがすべて長期間に渡って故障者リスト入り。まさに悪夢のような連鎖反応で、新球場開場1年目にして大惨敗を喫した。そして迎えた今季の醜態に関しては、すでに語ってきた通りである。
(写真:かつて「メジャーで最もエキサイティングな選手」と呼ばれたレイエスの輝きも薄れてしまった)

「来季の構想を練ろうとも、サンタナの代役など見つかるものではない。現在の我々は負の連鎖にはまってしまっている。何とか抜け出せれば良いのだが」
 サンタナの故障発覚後、オマー・ミナヤGMも呆然としたような表情でそう語っていた。実際に左腕エースはこれで膝、肘、肩と、メッツ入り以来3年連続で手術を余儀なくされたことになる。さらに今季はサンタナ、K・ロッド以外にも、ジェイソン・ベイが脳震盪を患い、膝の回復が遅れたベルトランも92試合を欠場。

 それにしてもメッツの主力選手たちは、なぜここまで故障を繰り返してしまうのか。そもそも選手獲得時のスカウティングが拙いのか、あるいはチーム内の医療スタッフに問題があるのか、それともただ単に運が悪いだけなのか。
 おそらく、そのすべてなのだろう。いずれにしても最近のメッツの周囲には「次はどんな悪いことが起こるのだろうか」という暗い雰囲気が常に漂っている。

 ケガ人が余りにも多いため、残ったメンバーは余計なプレッシャーを背負い込み、結果として勝負どころで萎縮してしまう。その失敗の記憶が、さらなる敗北に繋がる。まさに悪循環。今のメッツは、ミナヤが指摘した“負の連鎖”から完全に抜け出せなくなっているように見える。

 今後、このチームがどうやって建て直しに取り組んでいくかを想像するのも少々難しい。まずは監督、GMの交代が濃厚という声も囁かれている。とにかくフィールド内外でリーダーシップの欠如が顕著なだけに、トップの首のすげ替えもやってみる価値はあるのだろう。
(写真:新球場もそろそろ閑古鳥が鳴き始めている)

 だが多くの問題がそれだけで解決するとも思えない。前述通りサンタナは来季も投げられない可能性があるし、故障持ちのベイ、レイエス、ベルトランの状態も未知数。昨今の経済不況が影響し、大物FA選手を補強する余裕もなさそうだという。どんな有能な監督を連れてきたところで、これほど穴だらけのロースターでいったいどれだけ戦えるというのか?

 2009年に開場したシティ・フィールドは、メッツファンの「フィールド・オブ・ドリームス」になるはずだった。だがその美しいスタジアムは、依然として暗闇に包まれたまま。そして遥か遠くを眺めても、明るい光はまったく目に飛び込んでこない。悲しいかな、それがこのチームの現実なのである。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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