45歳24日。中日の山本昌が9月4日の巨人戦でプロ野球史上最年長完封勝利記録を達成した。優勝争いの最中での白星だけに価値がある。
「シーラカンスばりにスゴイですねぇ」と本人。自らを“生きた化石”にたとえてみせた。

 本人は自嘲気味に話すが“生きた化石”どころか“長寿社会の星”である。
 これで4連勝となり、1948年に浜崎真二が記録した45歳以上のシーズン3勝、3連勝も62年ぶりに更新した。球威の衰えを熟達の技術と修羅場の知恵でカバーしてみせた。

 そういえばプロ野球史上最年長勝利投手記録(48歳4カ月)を持つ男・浜崎もサウスポーである。
 彼は自著『48歳の青春』(ベースボールマガジン社)でこう述べている。<たいして自慢できることではないが、若いうち、若さに任せて投げまくってすぐつぶれてしまうのは悲劇だ。年をとれば快速球で片付けるというわけにはいかんが、そのかわりうまみが出てくる。>

 この7月、実動年数を29とし、プロ野球最長記録を更新した埼玉西武の工藤公康もまたサウスポーだ。
「僕が左利きじゃなかったら、これだけ長くやれなかったでしょう。いや、プロ野球選手になれていたかどうかもわからない」
 いつだったか工藤はこう語っていた。

 同じストレートでも「左腕の130キロは右腕の140キロに相当する」と言われる。
 4日の巨人戦で山本昌のMAXは140キロにも満たなかったがそれで十分だった。何よりあれだけ腕が遅れて出てくるから、バッターは対応できないだろう。彼の場合、真っすぐはシンカー、スライダーをいかすための武器なのだ。

 バッターにすれば、わかっていても手が出ない。それが“円熟の芸”というものである。
 ひょっとしたら、浜崎の持つ最年長勝利記録を塗り替えるのではないか。いや、ぜひとも塗り替えてほしい。

<この原稿は2010年9月27日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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