仕事で異国に行く。それも、たったひとりで。しかも納得のできない理由で丸1年間干されたとする。あなたは耐えられるか。
 私なら「この国はオレには合わない」と捨てゼリフのひとつも残して、さっさと帰国の途につくだろう。
 しかし、この男は違った。「いつか復讐してやる」。この言葉をのみ込んで、じっと耐えたのだ。
 ブラジルからやってきたフットボーラー、ラモス瑠偉の身に厄災が降りかかったのは、来日後9カ月のことだった。

 読売クラブ対日産戦。
 試合中、日産のある選手とブツかった。よくあることだ。ところがこの選手は大声を出して大げさに倒れたため、ラモスはレッドカードを突きつけられた。
 その瞬間、相手は舌を出してニコッと笑った。ラモスはまんまと罠にはめられてしまったのである。

 ついカッとなり、その選手を追い回した。3日後、ペナルティが追加された。
 1年間出場停止――。
「確かに日本に来た時から、おかしな雰囲気は感じていました。日本人、口に出しては言わないけれど、それ(外国人差別)は確かにありました。ああ、この国で外国人が活躍するのは大変だな、とも思った。
 だから処分が決まった時には、もうおカネもらわなくていいからブラジルに帰りたいと思った。気分的にもストレスが溜まって半端じゃなかった」

<この原稿は「ビッグトゥモロー」2010年11月号に掲載されました>
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