◇アメリカン・リーグ
レンジャーズ(西地区王者)vs.ヤンキース(ワイルドカード)

 アメリカ国内でも、ア・リーグ優勝決定シリーズはやはりヤンキースが有利と予想する声が多い。9月の不振で心配されたヤンキース打線は、地区シリーズのツインズとの3試合で大舞台での勝負強さを再びアピール。特に3番打者のマーク・テシェイラが復調気配(地区シリーズでは4安打3打点)なのが心強い。しかも相手投手に1球でも多く投げさせる姿勢がチーム全体に貫かれているだけに、このシリーズでも極端な得点力不足に悩まされることは考え難い。
(写真:A・ロッドを中心とするヤンキースは2連覇を成し遂げられるか)
 そして何より、エースのCC.サバシア、地区シリーズで好投したフィル・ヒューズ、アンディ・ペティートという先発3本柱を1戦目から予定通り投げさせられるのが大きい。第4戦先発予定のAJ.バーネットが不安視されているが、たった1戦の先発機会だけなら騒ぐほどのことではないだろう。

 一方のレンジャーズは、盛んに喧伝されている通り大エースのクリフ・リー(対ヤンキースは過去5戦で4勝0敗、防御率2.97)が地区シリーズの最終戦で先発した関係で第3戦まで使うことができない。CJ.ウィルソン、コルビー・ルイス、トミー・ハンターも今季の数字的には優れているが、貧打のチームが多かったア・リーグ西地区が中心の登板機会で残した成績の過大評価は禁物だ。特に2、3廻り目の対戦にさしかかった頃、ヤンキース打線の上手さに手を焼くのではないか。

 ただペーパー上では攻守ともにヤンキースが上に思えても、容易なシリーズにはなるまい。ジョシュ・ハミルトン、ネルソン・クルーズ、ウラディミール・ゲレーロらのパワーに目が行きがちだが、レイズを倒して勢いに乗るレンジャーズは地区シリーズ中、意外にも抜け目ない走塁を披露してきた。
 今季盗塁数でメジャー7位のこのチームを、ヤンキースが苦手としていた数年前までのエンジェルスと比較する声も出始めている。今季もホルヘ・ポサダ捕手の守備力に不安を抱える(チーム盗塁阻止率15%はメジャー最低)ヤンキースにとって、決してレンジャーズはやり易い相手とは言えないかもしれない。

 一方、9月10〜12日の直接対決ではスイープ勝利を飾っているレンジャーズに、ヤンキースに対する苦手意識はあるまい。リー、ゲレーロ、マイケル・ヤングら海千山千のベテランが多いだけに、地区シリーズでのツインズのようにヤンキースタジアムで萎縮してしまうこともないだろう。このシリーズでも時に先発投手が崩されて大敗を喫するゲームはあっても、随所に勝負強さと機転を発揮し、見応えある混戦に持ち込むのではないだろうか。
(写真:逝去したばかりのスタインブレナー元オーナーに優勝トロフィーを捧げたいヤンキースだが、レンジャーズは侮れない相手だ)

 今季開幕戦の時点での所属選手の給料総額は、ヤンキースが2億633万ドル、レンジャーズは5525万ドル。ヤンキースは過去40度のリーグ制覇、27度のワールドシリーズ制覇を飾っているのに対し、レンジャーズはこれが初のリーグ優勝への挑戦となる。実績とペイロールには天と地との差がある両軍の対戦は、持ち味を発揮し合った末に3勝3敗と並んだまま、天下分け目の第7戦へともつれ込むのではないか。

 そこで抜け出すのは……やはりヤンキースか。
 順当にいけば最終戦でもレンジャーズ先発予定のリーは、すでに現役有数のビッグゲーム投手との名声を築きあげつつある恐ろしい相手ではある。だが昨季ワールドシリーズでもシリーズ中2度目の対戦では、さすがのリーも目が慣れ始めたヤンキース打線相手に苦しんだことを忘れるべきではない。
 そして迎えた2010年ALCS――。最終戦で難敵左腕をついに打ち崩し、昨季王者は2年連続世界一に向けて前進すると見る。

 最終予想:ヤンキース4勝3敗


◇ナショナルリーグ
フィリーズ(東地区王者)vs.ジャイアンツ(西地区王者)

 近年最高と言える上質な先発ローテーション同士の対決が実現し、緊迫の投手戦が続くことは必至。打者有利のスタジアムで派手な試合の連続となりそうなALCSより、こちらのシリーズのほうをより楽しみにしているコアなベースボールファンは多いとの声も聴こえてくる。
 特に第1戦は絶対に必見だ。過去2年連続サイヤング賞のティム・リンスカムが、今季サイヤング賞当確のロイ・ハラデイと対決する。
(写真:フィリーズが優勝の喜びを分かち合う姿は近年は恒例のものとなっている)

 リンスカムは地区シリーズ第1戦で14奪三振での完封勝利を挙げ、一方のハラデイはプレーオフ自己初登板でノーヒッターを達成して周囲の度肝を抜いた。対照的なキャラクターの2人の快腕の激突は、現代野球の最高峰と言える華やかな投手戦となることだろう。
また第2戦以降も、コール・ハメルズ対ジョナサン・サンチェス、ロイ・オズワルド対マット・ケインと垂涎のマッチアップが続く。これらの投手の地区シリーズでの出来を見る限り、ここでも大崩れは想像し難い。わずかな得点が貴重なものとなり、勝敗は両チームの勝負強さと修羅場での度胸に委ねられることになる。

 そしてそうなると、やはり過去2年連続でワールドシリーズに進んできた勝負師軍団フィリーズが有利だろう。打線の迫力、経験値でもフィリーズが大きく上回るだけに、ジャイアンツにアドバンテージは見出しづらい。
 今季ナ・リーグのセーブ王ブライアン・ウィルソン、左殺しのハビアー・ロペスらブルペンの働き次第で、ジャイアンツも2、3の勝ち星を拾えるはず。だがハラデイ、ハメルズ、オズワルドの3本柱に支えられ、チェイス・アトリー、ジェイソン・ワース、ライアン・ハワードら豪快なスラッガーに引っ張られたチームから、7戦中4勝を挙げるのは至難の業である。
(写真:ジミー・ロリンズ遊撃手もフィリーズの鍵を握る1人)

 フィリーズが終盤イニングに抜け出しての劇的な勝利を積み重ね、2年振りの王座奪還に向けて順当に駒を進めることになるだろう。

 最終予想:フィリーズ4勝2敗


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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