先週はアイランドリーグ選抜のコーチとして、みやざきフェニックスリーグに参加してきました。車で香川から瀬戸大橋を渡り、岡山、広島、山口経由で九州に上陸して、宮崎までは約10時間。香川は23日からの独立リーグ・グランドチャンピオンシップに臨むため、4試合のみの参戦でしたが、NPB相手に実戦を積めたことは選手にとって良かったのではないでしょうか。もっとも結果は1勝3敗で、選抜チームの成績を下げてしまい、申し訳なかったと思います。
 今回、選抜に呼ばれているのは、リーグでもそれなりの成績を収めたメンバー。しかし、NPBはまたレベルが違います。リーグでは打ち損じてくれた甘い球も、NPBの選手は確実に仕留めます。逆にリーグの選手は1球で仕留めきれていません。目標とするNPBの各チームと対戦し、自分たちのレベルはよく分かったはずです。

 その中でも評価を上げたのは愛媛の左腕・岸敬祐でしょう。彼は僕が参加した4試合すべてに登板し、結果も内容も良いものを残しました。連投で疲れがたまっていてもボールにキレがあるため、NPB相手でも大崩れしません。欲をいえば下半身を鍛えて、もうひとまわりケツがでかくなれば、もっと力強いボールが投げられるはずです。まじめな性格ですし、サウスポーである点は大きなアピールポイント。他球団の選手ではありますが、今後が楽しみです。

 香川ではリーグチャンピオンシップで2戦2勝だった前川勝彦(元オリックス)が埼玉西武戦に先発し、6回5失点。北海道日本ハム戦では伊藤秀範(元東京ヤクルト)、橋本亮馬が1死も取れず降板するなど、いいところを見せられませんでした。前川に関して言えばボール自体は悪くなかったと思います。ただキャッチャーは他チームの選手だったため、なかなかリズムが合わなかったようです。

 彼はアメリカでテンポよく投げ込む投球術を覚えました。前川が先発すると試合は2時間ちょっとで終わるほどの早さです。この投法は投げ急ぎになる欠点もありますが、そこはベテランだけにフォームを乱すことがありません。NPBでもこれだけ小気味よく投げられるピッチャーはいないでしょう。しかし、それだけにキャッチャーとの呼吸を合わせることが大切になってきます。前川ほどのキャリアであれば、それでもうまくキャッチャーを引っ張ってほしかったのですが、新たな課題が見つかりました。

 とはいえ、この1年、前川は変化を遂げた投手のひとりです。香川にやってきた当初は良くも悪くも元プロのプライドが強く、野球に対する姿勢で若手の手本になるか不安を感じていました。前期は結果こそ残していたものの、大事な場面で打たれるケースも目立ち、内容に不満があったのも事実です。

 ところが高校の先輩である西田真二監督の喝も効いたのでしょう。シーズンが進むにつれ、練習への取り組みが変わり、内容も比例して良くなっていきました。その集大成が後期終盤からリーグチャンピオンシップにかけて出たのだとみています。特に9月24日のノーヒットノーラン(対愛媛)は前後期制覇を大きく引き寄せる1勝になりました。

 当日の前川は四死球も6個与え、調子は決して良くありませんでした。球数も多かったため、6回あたりには監督が「1本打たれたら代えるぞ」と本人に話していたほどです(苦笑)。もちろん彼のレベルを考えれば、これくらいのピッチングをできる力は持っています。それでもノーヒットノーランは簡単にできる記録ではありません。周りの選手も独特の緊張感を味わえて、いい経験ができました。

 BCリーグ王者・石川とのグランドチャンピオンシップでも、前川と高尾健太が先発の軸です。初対決でデータも少ないため、試合はロースコアになることが予想されます。最後は投手を含めたディフェンス力が勝敗を分けることになるでしょう。このコーナーでは毎回のように取り上げている右腕の上野啓輔もストレートが走っており、先発、中継ぎ、どちらでも行けます。あとは終盤になって調子を落とした抑えの橋本が復調してくれれば投手陣は盤石です。

 第1戦、第2戦はホームで迎えます。ここでしっかり自分たちの野球をして、流れをつかみたいと考えています。香川のみなさん、今シーズンはこの2試合を残すのみになりました。ぜひ、熱い応援をよろしくお願いします。

 
天野浩一(あまの・こういち)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
1979年4月12日、香川県出身。高松東高、四国学院大を経て2002年、ドラフト10巡目で広島に入団。2年目には貴重な中継ぎとして49試合に登板した。06年オフに自由契約となり、翌年、香川に入団。前期は先発、後期はリリーバーとして41試合に登板し、7勝6敗13セーブの好成績で最多セーブを獲得。リーグ優勝および独立リーグ日本一に大きく貢献した。08年はプレーイングコーチとして福井に入団。23試合に登板し、0勝2敗8セーブと主に抑えとして活躍した。09年は藤田平前監督の後任として福井の指揮を執った。現役時代(NPB)の通算成績は121試合、5勝6敗、防御率4.45。
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