本当にホッとしました。10月28日のドラフト会議。高知からは安田圭佑がソフトバンクから育成選手として指名を受けました。監督に就任以来、NPB選手が誕生するのは初めてです。今も喜びをかみしめています。
 それにしても会議が始まって朗報が届くまでは長く感じました。今年こそ指名があると信じて待ち続けたものの、本ドラフトが終了しても高知の選手の名前は呼ばれません。昨年も2名ほど可能性があるといわれながら空振りに終わった再現かとガックリしていました。その矢先、育成ドラフトで安田の名前が出ただけに、余計にうれしさがこみあげてきましたね。

 安田は昨オフのトライアウトの時から俊足が光っていました。彼の出身がちょうど宮崎ということもあり、春のキャンプ前にはホークス時代の教え子である川宗則の自主トレに参加させてもらいました。彼自身も川が憧れの選手でしたから励みになったことでしょう。最初にNPBのレベルを肌で感じたことで、目標設定が明確にできた点が良かったのかもしれません。

 今だから言えますが、安田はせっかく参加した川との自主トレを途中で肩を痛めて休んでいます。張り切りすぎてムリをしてしまったのです。もちろん、事前に彼には「しっかり肩もつくっておけよ」と話はしていました。しかし、アマチュアとプロでは練習の質が違います。
「いいボール放っているなと思っていたんですけどね。“投げれんようになった”と言ってきました……。故障させてしまってスミマセン」
 川から、そんなお詫びの電話がかかってきました。安田は春のキャンプも肩のリハビリに費やしましたが、結果的にはいい授業料になったはずです。プロで生きていくには、いかに準備とケアが大切か身にしみて分かったことでしょう。

 このように安田は、まだ体ができていないため、やや故障をしやすいところがあります。今シーズンも夏場に手首を痛め、打率が急降下しました。NPBに行けば、寮で食事も出ますし、トレーニング施設も充実しています。まずは1年を通じて動ける体をつくってほしいものです。

 そしてプロである以上、たとえケガをしていても、それを感じさせない工夫も必要でしょう。シーズン中、彼からは「××が痛い」という声をよく聞きました。これでは監督は「じゃあ、別の選手を使うか」と考えるでしょう。せっかくのチャンスをみすみす逃してしまう可能性もあるのです。

 ですから、あえて僕は「それくらい大丈夫や。上のレベルでは休めんぞ」と彼を試合に出し続けました。前回もお話したように、少しくらい状態が悪くても、何とか対処する術を安田には身につけてほしかったのです。もちろんケガを我慢するといっても、それが取り返しのつかないものになってはいけません。トレーナーと相談しながら、おかしいなと思ったらすぐにケア、予防をする。そういった自分の体に関する感覚を研ぎ澄ませてほしいと感じています。

 ドラフト指名後には川本人から祝福の電話もかかってきました。安田にとっては身近に素晴らしいお手本がいるのですから、良いところをどんどん吸収して、1日も早く支配化選手を目指してほしいものです。この1年で打撃も向上し、技術的には充分、NPBで通用するレベルになりました。独立リーグの評価を高め、より多くの選手が夢を叶えられる環境にしていくためにも、安田をはじめ、今回指名を受けた選手の活躍は不可欠です。NPBに入って満足することなく、1軍でのプレーを目指してガムシャラに頑張ってほしいと願っています。


定岡智秋 (さだおか・ちあき)プロフィール>: 高知ファイティングドッグス監督
 1953年6月17日、鹿児島県出身。定岡三兄弟(次男・正二=元巨人、三男・徹久=元広島)の長男として、鹿児島実業から72年、ドラフト3位で南海(現ソフトバンク)に入団。強肩の遊撃手として河埜敬幸(元長崎監督)と二遊間コンビを形成した。オールスターにも3回出場し、87年限りで現役を引退。その後、ホークス一筋でスカウトや守備走塁コーチ、二軍監督などを歴任。小久保裕紀、松中信彦、川崎宗則などを指導し、現在の強いソフトバンクの礎づくりに貢献した。息子の卓摩は千葉ロッテの内野手。08年より高知の監督に就任。現役時代の通算成績は1216試合、打率.232、88本塁打、370打点。
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