世界と対等に戦う準備がようやく整った。
 ボートの武田大作選手(ダイキ)は9月29日、愛媛県代表として出場した「ゆめ半島千葉国体」の成年男子シングルスカルで優勝。12度目の国体制覇を達成した。9月9日から戸田ボートコースで開催された全日本選手権でも男子シングルスカルで史上最多となる12回目の優勝を収め、日本ボート界の第一人者の座は全く揺らがない。10月31日からニュージーランドで行われる世界選手権に向け、調子は上向きだ。
(写真:全日本選手権では2006年から5連覇となった)
 接戦の国体でつかんだ手応え

「左ひざの痛みなくこげたのが、一番良かったですね。全日本の時より確実に状態は上がっていますよ」
 国体のレースを振り返って、武田はこう語る。今年は相手よりも自分との闘いが続いた。古傷の左ひざが痛み、満足にオールを漕げない。その影響で5月のワールドカップ第1戦(スロベニア)では、予選2組で4位に終わり、その後のレースを棄権した。7月のスイスでの第3戦は準々決勝を1位通過したものの、準決勝では限界を超えた体が悲鳴をあげ、ゴールするのが精一杯だった。

 日本に戻っても、ひざ痛はたびたび襲ってきた。全日本選手権の予選前日にはひざが曲がらず、棄権を考えたほどだ。同選手権での優勝タイムは7分45秒97。風などの条件が違うとはいえ、昨年よりも50秒ほど遅いゴールだった。
「マッサージするとかえって炎症がひどくなるんです。アイシングとテーピングでケアをして痛みが出ないようにするしかない」
 いつ再発するか分からない不安を抱えながら、国体本番がやってきた。

 迎えた決勝は激しい展開になった。インカレを優勝した20歳の栗原誠和(群馬、日大)がピタリとつき、互角の戦いを演じる。国際大会や全日本選手権と異なり、1000メートルの短距離で争われる国体では若くてパワーのある選手が有利だ。しかも川面のコースは、レーンによって流れが一定でないため対処が難しい。故障を抱えたベテランにとっては、決して歓迎できる条件ではなかった。

 だが、それでも最後は失速することなく艇を進め、若手の挑戦を退けた。栗原との差は1秒42だった
「差はそんなにつきませんでしたけど、僕自身としては手応えをつかめました。500メートルの入りも早かったですし、スピードもしっかり出せた。世界と戦う準備ができつつあると感じました」

 悩みはパートナー探し

 本来であれば、今季はダブルスカルで五輪に向けた「準備、勉強の年」にするはずだった。代表候補合宿で何人かとペアを組んだ中で、田立健太選手(戸田中央総合病院RC)とともに世界を転戦することを決めた。決め手となったのは「向上心の強さ」「ケガをしない体の強さ」だった。ところが、ワールドカップ第1戦では田立が故障し、ダブルスカルは棄権を余儀なくされた。続く第2戦(ドイツ)では予選2組で5位。敗者復活戦も2組で4位に終わり、上位に食い込めなかった。

「第3戦もダブルで出る予定だったんですけど、コーチの判断で急遽、取りやめになりました。残念ながらテクニックの面で予想以上に彼とは合わなかったですね。まずストロークの長さが違った。僕と比べると、やはり彼は短い。日本だったらちょっとぐらいの誤差は何とかなります。でも世界で勝つためには、それでは何ともならない。あとは彼の課題に上げていたピッチング(上下動)がどうしても止められなかった。艇が揺れると前への推進力を奪われてしまうんです」

 この秋は“スカウト活動”にも力を入れた。「今回のように合うと思ってもうまくいかないケースもある。難しいですね。協会任せにしていてもダメなので、自分からいい選手には声をかけないと……」。五輪種目には軽量級のシングルスカルはない。全日本選手権、国体では新たなパートナーを探そうと水面に熱い視線を送る武田の姿があった。

 今回の世界選手権はシングルスカルで出場する。昨年は北京五輪でダブルスカルに出ていた強豪がシングルスカルに続々と参戦する中、6分59秒25のタイムで4位に入った。もちろん出るからにはメダルを狙う。開催地はニュージーランドで時差がないため、直前まで日本で調整できる点はプラス材料だ。またコースも大きな湖の中につくられ、風が吹いて波の影響を受ける可能性がある。愛媛では波立つ瀬戸内海を練習場とする武田にとっては決してイヤな環境ではない。
「ひざの状態をみながら高強度のトレーニングもやって、追い込めるようになってきました。練習の質も上がってきて、いい練習ができていますよ」
(写真:練習に関してはコーチから一任されている。「自分自身がコーチなんです」)

 世界選手権が終われば、11月には中国・広州でのアジア大会が控える。大きなレースが2カ月連続で続くため、うまくピークを本番に合わせることも大切だ。
「絶対に気持ちを切らさないようにしたいですね。練習で強化をしながら、同時に疲れもためないように調整もしていきたいです」
 その先には2012年のロンドン五輪があることを武田は忘れていない。集大成となる2年後のレースでベストを出すには、何ができていて、何ができていないのか。海外での2試合は、その答えを見つける旅になる。

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(石田洋之)
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