巻き返しへの第一歩だ。
 11月13、14日と伊勢神宮弓道場で開催された第58回全日本実業団弓道大会、第30回全日本実業団遠的大会に参加したダイキ弓道部は近的で女子の部と産業別(金融・商事・その他の部)で団体優勝をおさめた。遠的でも団体で総合4位だった。また個人でも山内絵里加が近的3位、遠的で北風磨理が4位、橋本早苗が6位に入賞した。部員全員が参加してつかみとった結果をそれぞれ振り返ってもらった。
(写真:国体出場を逃した悔しさを晴らした弓道部員たち)
 女子優勝は最低限の目標

「何より全員が出場して勝ったということが大きいですね。1人だけがダメということもなく、みんながそれぞれ力を発揮してくれた。収穫のある大会だったと思います」
 昨年から弓道部の指揮を執り始めた石田亜希子監督は、そう大会を振り返る。的中数ではなく、的の中で3〜10点と割り振られた得点の合計で競われる今大会、各選手は1次予選から高得点を連発した。5選手が4射ずつ引く形式を2回繰り返す1次予選は、1回目に80点をマーク。2回目は67点だったが、合計147点で余裕の2次予選進出を決めた。この予選は産業別対抗戦も兼ねており、金融・商事・その他の部でトップの成績だったダイキは見事、優勝をおさめた。

「全員がカバーし合って、いい流れがつかめました。それぞれが自分の確認すべき点、注意すべき点を頭に入れて弓を引いていた。全員のレベルアップの成果ではないでしょうか」
 主将の橋本も全員の勝利を強調する。トーナメント方式となった2次予選では初戦、東レ株式会社愛媛工場との“愛媛対決”を制した。だが、2回戦では日頃、合同練習を行っている岐阜県のイビデンとの対戦。「一緒に練習している選手も多くてやりにくかった」。大差をつけられての敗戦だった。

 ただ、女子5名で臨んだダイキは、女子の部に限っていえば上位6チームに入っていたため、決勝へとコマを進める。「本当は男女総合でも上位を狙っていた。負けた悔しさを全員がうまく決勝で爆発させたと思います」と石田監督が語るように、再び決勝では各選手が高得点を叩きだす。北風がいきなり1射目で10点を射抜いて勢いをつけると、合計で88点を稼ぎ、優勝を収めた。

 彼女たちには今大会、何が何でも結果を残さなくてはいけない理由があった。今夏、ダイキ弓道部が主体となった愛媛県代表は四国ブロック予選で敗れ、国体出場を逃した。最初の近的で1位に立ちながら、遠的でまさかの最下位。予選2位での国体出場権をかけた高知との競射にも競り負けた。
「最後はメンタルで負けたんだと思います。近的でトップになって少し油断した。そして遠的で最下位になって逆に焦ってしまった。気持ちと体を一体化させられなかったですね……」
 橋本は敗因をこう分析する。どんなに悔やんでも国体出場を逃したという事実は変えられない。来年こそ国体出場、そして上位入賞を勝ち取るために、まずはこの実業団大会で成績を残す必要があった。

「女子の部での優勝は最低条件でした。それは選手にも伝えていました。(ダイキの)大亀孝裕会長にも“よいご報告ができるように”と大会前にお話していましたからね。選手たちにプレッシャーはあったと思います。でもチームの雰囲気は悪くなかったし、全体の調子も上向きだった。逆に目標を明確にしたほうが良いと考えたんです」
 監督の思いに選手たちはしっかり応えた。
「特に北風と小早川(貴子)は実業団大会に出るのは初めてなので、雰囲気に飲まれないか心配でした。2人とも試合前は顔がこわばっていたようにみえたのですが、“自信持ってやりよ”と言ったら“大丈夫です”と言葉が返ってきた。これで何とかなるかなと感じましたね。緊張を乗り越えて結果を出したことで一皮むけたのではないでしょうか」

 来季こそ2年越しの約束を

 石田監督は出産で一時、弓道から離れていたが、それまではダイキの主力メンバーだった。選手たちと年齢も近いだけに、そのアドバイスは的確かつ有効だ。
「本番になったら技術的なことは一切言わないようにしています。私もそうでしたが、試合当日に技術面を指摘されると、余計に混乱してしまう。“落ち着いて”とか“そのままで大丈夫”とか、気持ちを前向きにさせることを言うように心がけています」
本人は「試合中は熱くなっていて、自分でも何を言ったのか覚えていない」と苦笑いするものの、「選手の気持ちを理解して話をしてくれる」と主将の橋本らの評判は上々だ。新体制で成績を向上させる下地は、この1年で充分にできたといって良いだろう。

 社会人1年目の北風は個人でも遠的で4位に入った。4位といっても、優勝者とはわずかに2点差。もう1本、的中させていれば最低でも3点を稼ぎ、逆転していた。「すごく悔しかったです。力不足でした」と振り返りつつも、「大学時代と比べると的の高得点部分が小さい中で、(最高の)10点を出せたのはうれしかった」と語る。大会前は矢の方向が安定せず、本人も周囲も不安を隠せなかった。だが、「弓を引いている時のほうが、人前で話をするより緊張しない」という性格が本番でプラスに転じた。弓道を始めたのは遅く松山大に入ってからだ。猛練習で力をつけ、大学4年時には国体出場をつかみとった。「会(弓を引ききった状態)が持ちやすい引き方を身につけて、これからもちょっとずつうまくなっていきたいです」。伸びしろが大きいだけに、来季の飛躍が楽しみだ。

 近的の個人で3位に入った山内にとっては、人一倍の悔しさをバネにした大会だった。国体出場を逃したブロック予選、山内は前日で補欠に回ることを言い渡された。国体メンバーから漏れた昨年、彼女は忘年会で友達と「国体での県代表入りと優勝」を約束した。ブロック予選の敗退で、その約束はついに果たせなかった。自分が出場して敗れたならまだしも、補欠ではどうすることもできない。忸怩たる思いが胸の中にあった。

 ただ、迎えた大会当日の調子は決して良くなかった。
「初日の団体1次予選では矢が上に行く傾向がありました。だから、その後の個人戦は2日目の2次予選に向けて調整をしようと思っていたんです」
 調整といっても決して勝負をあきらめたわけではない。ほんの気持ち、狙いを下に定め、弓を持つ左肩の付け根を中に入れた。そして弦を引くほうの肩を前に出して大きく引けるように気をつけた。1射目、2射目は3点だったが、3射目5点、4射目7点と射を重ねるごとに高得点部分を射抜いた。
「試合が近くなると的中が下がり、自信を持って当日を迎えられない。これからは試合にピークを持ってこられるようにしたいです」
 来年こそは友達との2年越しの約束を果たすつもりだ。

 この大会で得たものを来季以降につなげるには、各選手がさらに実力を上げることが求められる。
「敗退した2次予選は1人2射で競いました。2本となると1本でも外すと試合の流れが大きく変わってしまう。コンスタントに的中させることが来年のひとつの目標になると思います」
 主将の橋本は来季への課題をこう口にする。2011年の目標は国体出場、そして優勝だ。まずは競争を勝ち抜き、県代表に入るため、お互いに切磋琢磨する日々がこれからも続いていく。

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(石田洋之)
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