16試合で6万1000人少々。1試合平均にするとたったの3800人。観衆が1万人を超えたのは、わずかに1試合だけだった。これが、天皇杯3回戦の現実である。
 元来、日本人は世界でも有数のトーナメント大好き民族のはずである。サッカーに限らず、ほとんどすべての学生スポーツの日本一はトーナメントで決定される。あとがない一発勝負に魅力を感じる人の割合は、他の国に比べても多い気がする。
 にも関わらず、観客動員を見る限り、ファンにとっての天皇杯はまるで魅力のないコンテンツに成り下がってしまった感がある。1試合平均で3800人。これでは、チーム関係者としては数字を水増ししようという気にもなれまい。

 そもそもカップ戦の魅力とは何なのか。ジャイアント・キリングである。ところが、現状の天皇杯は、できる限り番狂わせを少なくしようという狙いがあるとしか思えない運営がなされている。
 今年の大会に関して言えば、地方大会を勝ち上がってきたチームは、中1日というFIFAも呆れる過酷な日程での試合を余儀なくされた。実力的に落ちる側が、より大きなハンデを背負って戦うのだから、番狂わせが起きる可能性はガクンと落ちる。
 おまけに、戦うスタジアムは、ことごとく格上チームのホームグラウンドである。J1のファンからすれば、勝って当然となる格下相手の試合が魅力的なはずもない。1万人はおろか、5000人をもはるかに下回る平均観客数には、いまの天皇杯に対するファンの見方がはっきりと表れている。このままでいけば、おそらくは来年も再来年も、ガラガラのスタンドでの試合が続くことになる。
 だが、試合を格下のチームのホームグラウンドで行うということになれば、話は大きく変わってくる。J2のチームが、JFLのチームが、浦和レッズを迎撃する。小さなスタジアムは、間違いなくファンで埋めつくされるはずである。当然、番狂わせが起きる可能性も高まるだろう。大会は、いまよりもはるかに盛り上がる。

 それでは格上となるチームのハンデが大きすぎるというのであれば、いっそのこと、きちんとホーム&アウェーにすればいい。レアル・マドリードが3部リーグのホームに乗り込んで戦っているのに、日本ではできないというのでは理屈が通らない。日程、会場の調整など、クリアしなければならない問題がいくつかあるのは承知しているが、要は、日本サッカー協会が天皇杯をどう見ているか、である。

<この原稿は10年10月21付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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