マエケンが自らのやり方を曲げなかったのは次のような信念に依る。
「僕は投げ込まなくても、もうフォームは固まっているという考え方なんです。一応、プロ野球選手なので(笑)。12月と1月、たった2カ月ピッチングをしなかったくらいでフォームを忘れるようなら(そういう選手は)プロじゃないと思います」
 そして、こう続けた。
「他の人のことはわかりませんが、僕は小学校からずっと野球をやってきてキャッチボールもピッチングも欠かしたことがない。いまさら肩のスタミナをつけなくても十分、備わっている。
 だからキャンプでは肩をつくるためではなく、感覚を取り戻すために投げるんです。変化球の感覚だって2〜3回ピッチングすれば普通に戻ります。
 だから僕には、必要以上の投げ込みは必要ないという考えです。肩は消耗品。調整は70球か80球あれば大丈夫です」

 ピッチャーの商売道具である肩やヒジは自分で守らなければならない。コーチの指示通りに動いて故障したとしてもコーチは責任をとらない。泣きを見るのは結局は自分である。
 あとで「コーチに壊された」と恨み節を吐いても、もう遅いのだ。

 自分で判断し、自分で行動し、自分で責任をとる。それがプロの掟なのである。
 上司の顔色を窺う前に、自らの目の光を確認すべきだ。死んだイワシのような目をしている男に仕事のできる者はいない。

<この原稿は「ビッグトゥモロー」2010年12月号に掲載されました>
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