敵地・福岡でソフトバンクを破り、日本シリーズ出場を決めると、千葉ロッテの西村徳文監督以下全員がレフトスタンド前に出向き、肩を組んでファンとともに応援歌を合唱した。
 西村の挨拶もファンを意識したものだった。
「皆さんの熱い声援のおかげでここまで来られました。日本シリーズもあります。もう少しだけ力を貸してください」
 千葉ロッテがファンサービスに力を入れるようになったのは、ボビー・バレンタインが指揮を執るようになってからだ。
 西村は前任のバレンタインの下で、6年間ヘッドコーチを務めた。
「いちばん感じたのは、ファンをすごく大切にされる方だということ。自分もそれは大切にしていきたい」
 開幕前、西村はこう語っていた。
 バレンタインイズムを引き継ぐことを明確にしたのである。ファンと一体となっての大合唱は、それを象徴するようなシーンだった。

 とはいえ、全てを継承したわけではない。
 バレンタインは猫の目のようにクルクルと打順を入れ替えた。こうした目先を変えるやり方は短期的には効果が出ても長続きはしない。チームがジリ貧に陥った原因はここにあるのではないか。

 そう考えた西村はシーズンを通じて西岡剛を1番、井口資仁を3番に固定した。開幕4番の金泰均、5番の大松尚逸は下位に下げたが、それでも辛抱強く使い続けた。このあたりの采配は脱バレンタインイズムと言っていいだろう。

<この原稿は「ビッグトゥモロー」2011年1月号に掲載されました>
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