広島、巨人で主に先発投手として活躍したサウスポーの川口和久が巨人の投手総合コーチに就任した。1軍、2軍を横断的に見ることになりそうだ。

 川口は昨年と今年、臨時投手コーチとして春季キャンプ中、巨人の若手投手を指導した経験を持つ。選手からは「わかりやすい」と評判だった。そのあたりを球団は買ったのではないか。監督の原辰徳とはともにドラフト1位の同期入団だ。
 広島時代は先発専門だったが、FA権を行使して巨人に移籍、2年目のシーズン途中からはリリーバーに転向した。1996年には胴上げ投手になっている。

 社会人野球のデュプロから81年、鳴り物入りで広島に入団した。ヒョロッとした体付きで、いかにも下半身が弱そうだった。
 そんな川口を鍛え上げたのが投手コーチをしていた大石清である。

 川口の述懐――。
「1軍のキャンプを経験し、アマチュアとの力の差を痛感して2軍に落ちた。そこでプロ野球選手としての土台をつくってくれたのが大石さんです。
 練習の密度が濃かった。さんざん走らされてから投球練習。僕には“リリースポイントが高いから、もっと前でボールを放すように”との課題が与えられた。
 大石さんとフォームの修正に取り組んでいたらヒジを痛めてしまった。しかし、それによってヒジの使い方を覚えた。この時、下半身が鍛えられたことがプラスに働いたんです。
 というのは、ヒジを無理なく前へ出すためには、ステップの幅を広げなくてはならない。ステップの幅を広げるには、下半身の安定が大前提となる。
 大石さんから教わったのは“チームで一番練習をするのはピッチャーじゃなければいけない”ということ。あれだけ過酷な練習に耐えたからこそ“試合って、こんなに楽なのか。毎日、試合をやって欲しいな”という気持ちになれたんだと思います」
「鉄は熱いうちに打て」とは、なるほど、よく言ったものだ。

 現役時代、細身ながらも、川口のタフネスぶりは群を抜いていた。コントロールに難があるため球数は多かったが、ひとりで1試合投げ抜くだけのスタミナがあった。
 ちなみに今季、200イニング以上投げたピッチャーは両リーグで6人しかいない。川口は83年、89年、90年、91年と4回も200イニング以上投げている。それでいて大きな故障もなかった。

 理論家でもある。
「ピッチャーが成功するかどうかのポイントはバッターをのけぞらせるボールとかわすボールの二つを持っていること。左ピッチャーの場合、左バッターの内角を突くボール、できればシュートがあれば、より効果的なピッチングができるでしょう」
 50歳を過ぎても、現役時代と変わりない体型を維持している。ダンディーな容姿も昔のままだ。先に紹介したコメントから判断すれば、目指すは鬼コーチか。

<この原稿は2010年11月14日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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