これが一時的なもの、突発的な出来事だというのであれば、何も心配する必要はない。あくまでもJを徹底して重視するスタイルを貫けばいい。
 だが、変化の始まりである可能性はないだろうか。高校3年生の段階ではJのスカウトのふるいから落とされ、大学生になって頭角をあらわした選手が、五輪代表のエースとして君臨するケース――つまり福岡大・永井謙佑のケースである。
 アジア大会準決勝イラン戦の決勝ゴールによって、五輪代表における永井の立場は絶対的なものになったといっていい。アトランタ五輪以降、大学生がメンバーに入ることはあっても、エースになったことはなかったが、今後、永井のような存在が出現する可能性はないのだろうか。彼は、あくまでも例外的な存在なのだろうか。
 わたしは、出現するのではないか、と見る。

 リーグの規模、レベルを考えるとやむを得ない部分があるとはいえ、現状、Jリーガーのギャラは必ずしも魅力的なものとは言い難い。選手生活の短さも言われている。となると、引退後のリスクが大きい高卒からJリーグ入りという道ではなく、大学は出ておきたいと考える選手は増えていく可能性がある。となると、大学はJリーグの下部組織に並び、育成の重要な場になっていくのではないか。
 だが、しばらく育成の本流から外れていたこともあって、大学サッカーの扱われ方は随分とぞんざいになっている感がある。現場の関係者からは「代表に呼ばれれば大学生は参加するのが当たり前、といった空気がある。Jのチームには招集を断る権利も認められているのに」という不満の声も聞こえてくる。試合に出場していないJリーガーの場合、五輪代表に参加してもチームが痛手を受けることはないが、たとえば福岡大、流通経済大は、大黒柱を欠いたまま、大学リーグの終盤戦を戦わざるをえなかった。

 これを「仕方のないこと」で片付けてしまっていいのだろうか。
 選手個人の将来を考えた場合、国際試合の経験が大きな意味を持ってくることは間違いない。けれども、国際試合でも通用するようになった源は、彼らが戦っているリーグ戦にある。そこをスポイルすることは、長い目で見れば貴重な育成の泉を枯らすことにつながりかねない。
 もちろん、選ぶ側、選ばれる側双方が納得のいく案を見つけるのは簡単なことではない。しかし、大学側の声がもっと通りやすくなった時、日本サッカーを育成していく上での幹は、いまよりもっと太いものになるはずだ。

<この原稿は10年11月25日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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