12月に入り、大晦日が近づいているが、『Dynamite!!』の対戦カードは、まだ1カード(高谷裕之×ビビアーノ・フェルナンデス)しか発表されていない。昨年の今頃には、魔裟斗の引退試合と、吉田秀彦×石井慧戦が決まっていたのだが、今年は(12月2日の時点で)目立った発表もない。選手が準備のできた状態で闘うためにも、また観る側の関心を高めるためにも、せめてメインカードだけでも、もっと早く決めて提示すべきだと思う。
 さて、『K-1 WORLD GP 2010 FINAL』(12月11日、有明コロシアム)も目前に迫っているが、その前に、とても気になる大会がある。12月5日、ディファ有明で開催される『パンクラス第6回ism主催興行』だ。
 
 パンクラスのエースであり、ミドル級チャンピオンである近藤有己は今年9月26日にディファ有明で開かれた『CAGE FORCE』で、まだ無名の新鋭ファイター藤井陸平(和術慧舟會RJW)と闘った。ほとんどのファンは“格上”の近藤の勝利を予想していたが、結果はまさかの敗北。判定ながら、0−3のスコアが示す通り、内容は完敗だったのである。
(写真:2008年には戦極にも参戦した近藤)

 近藤の負けは、パンクラスの存続すら危ぶまれるイメージを観る者に抱かせる衝撃的なものだった。あれから2カ月と少しが経ち、近藤は藤井と、今度は自らのタイトルを賭けて再び闘うことになった。その舞台が3日後の『パンクラスism主催興行』なのである。

 近藤に対して、私は強い思い入れがある。それは彼が、潔いファイターだからだ。
数年前の総合格闘技全盛期、近藤ほどのレベルにあった選手の多くは、対戦相手を選びたがった。自分の人気、ステータスを上げるためのマッチメイクを大会主催者に求める者は少なくなかった。
 
 有名だが、実力は既に下降していて勝てそうな選手を「おいしい相手」と呼んで闘いたがり、逆に無名で強い選手を「おいしくない相手」として敬遠する。そんな選手たちの姿を私は多く見てきた。

 しかし、近藤は違った。相手が格上だろうと格下だろうと、勝っても何の美味もなく、負けた時のリスクだけしかない試合であっても受けて立っていた。
「近藤も上手くやれば、もっと、おいしい思いができるのに……」
 陰で、そう言う者もいた。

 5年ほど前、私は近藤に、そのことについて聞いてみたことがある。彼は言った。
「僕は、おいしいとか、おいしくないとか、そんな言い方が嫌いなんです。格闘技って、もっと次元の高いものだと思っていますから。格闘技をやる上で大切なのは、相手からも自分からも逃げないことなんです。だからオファーがあったら受けます。逃げるのが嫌なんですよ」

 この潔さを貫く近藤は、藤井と闘い、そして敗れ、いま追いつめられている。もし、再戦で敗れれば、タイトルを失うだけでなく、引退もささやかれることだろう。

 これまで幾度も、崖っ淵で踏みとどまってきた彼は、今回も1度敗れた相手にリベンジを果たせるだろうか。12・5ディファ有明は緊迫した空気に包まれる。志高きパンクラスのエースの熱き闘いに期待したい。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)ほか。最新の編著『絶対、足が速くなる!』(日刊スポーツ出版社)が好評発売中。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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