ジェロム・レ・バンナに判定勝ちし、また一歩前進した石井慧だが、観る側に強烈なインパクトを残すことはできなかった。吉田秀彦のように短期間では階段を駆け上がれない。トップクラスに割って入るには、まだ時間がかかるのだろう。
(写真:異色マッチとして注目された自演乙×青木)
 昨年、大晦日の『Dynamite!!』……第15試合で高谷裕之がDREAMフェザー級王座を奪取し、第14試合では川尻達也が強敵ジョシュ・トムソンを退けているが、観る側に最も強いインパクトを与えたのは第8試合の長島☆自演乙☆雄一郎×青木真也だった。

 この試合は、1ラウンドがキックボクシングルール、2ラウンド目は総合格闘技ルールという変則形式で行なわれた。その1ラウンド目、総合格闘家の青木は逃げに逃げた。客席からブーイングが沸き起こることを覚悟で掛け逃げのハイキック、ドロップキックを連発。マットに寝そべってからは、ゆっくりゆっくりと起き上がって時間をかせぎ、K-1ファイター(キックボクサー)長島との打ち合いにまったく応じなかった。アッという間に3分間は終了。残されたのは、総合格闘技ルール5分間のラウンド。この時点で、青木の勝利を疑う者は客席に皆無だったことだろう。

 だが勝負はやってみなければわからない。
 青木絶対有利の第2ラウンドのゴングが打ち鳴らされる。さて、青木が、どんな形で長島を仕留めるのか? その一点に注目が集まったが、ラウンド開始から僅か4秒後、絶体絶命のピンチに陥っていたはずの長島が天井に向かって拳を突き上げ、逆に青木は気を失ってマットに倒れていた。
 寝業に持ち込もうとタックルを仕掛けた青木に対して、長島はカウンターでヒザ蹴りを合わせた。これがクリーンヒット。スーパーアップセットの結末が演出された。

「狙っていた」
 そう試合後に長島は話した。
 1ラウンドに逃げられた後も、長島は、諦めることなくワンチャンスを生かそうと考えていたのだ。だが、狙っていたからといって、こうも上手く決まるものではない。その技術以上に長島の勝負強さに感心した。この一戦は、青木の組み立てのミスというよりも、長島の勝負度胸を評価するべきだろう。格闘技は、結果がすべてである。つまりは、長島が青木よりも強かった。特に、この試合に限っては再戦の必要はないと思う。

 最後に、この一戦のレギュレーションについてだが、フェアではなかったと私は感じた。
 1ラウンド目をK-1ルールと設定するのであれば、両者はオープンフィンガーグローブではなく、ボクシンググローブを着用するべきだった。オープンフィンガーグローブは、クリンチの際に相手を掴むことができる。これでは総合格闘家に有利になってしまう。ラウンド間のインターバルでグローブを着け代えればよかったのではないか。

 もうひとつ、2ラウンド目(総合格闘技ルール)が5分間ならば、1ラウンド目(キックボクシングルール)も3分間ではなく、同じ5分間に設定すべきだろう。
 本来、キックボクサーと総合格闘家が闘う場合は、攻撃の許容範囲を広げている総合格闘技ルールで試合をするのが筋だと私は思っている。しかし、これからもミックスルールの試合が行われるのであれば、レギュレーションはよりフェアにした方が良いのでは……。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)ほか。最新の編著『絶対、足が速くなる!』(日刊スポーツ出版社)が好評発売中。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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