ジャパン、10立川-15李の新システム機能 サモア下し、決勝進出 〜PNC〜
15日、ラグビーの環太平洋6カ国が参加する「アサヒスーパードライ パシフィックネーションズカップ2024」(PNC)準決勝が東京・秩父宮ラグビー場で行われ、世界ランキング14位の日本代表(ジャパン)が同13位のサモア代表を49-27で下した。決勝は21日、大阪・花園ラグビー場で同10位のフィジー代表と対戦する。
エディー・ジョーンズHC体制3連勝でタイトル獲得に王手をかけた。
前節のアメリカ戦で負傷したHO坂手淳史とWTBジョネ・ナイカブラが離脱し、この試合はHO原田衛とWTB長田智希が先発した。ワーナー・ディアンズとLOのペアを組むのは初キャップのエピネリ・ウルイヴァイティ。アメリカ戦でSOとして途中出場し、好パフォーマンスを見せた立川理道が10番、立川の投入によりFBにシフトした李承信は15番を付けた。立川は9年ぶりの10番、李は代表初の15番となった。
立川と李は攻撃時はW司令塔として振る舞った。残暑厳しく、強風が吹くコンディションの中、冷静なゲームメイクが光った。キックオフから相手のミスでボールを奪うと、敵陣深くに攻め込んだ。すると6分、右サイドでボールを受けた李がサモアディフェンスの裏を突くグラバーキック。それをCTBディラン・ライリーがキャッチし、インゴール右に飛び込んだ。李がコンバージョンキックを決め、7点を先制した。
さらに畳み掛けるジャパンは10分、敵陣でSH藤原忍のパスをオフサイドポジションで叩いたWTBエリザペタ・アロフィポがイエローカード&ペナルティートライ。14-0とリードを広げる。13分に1トライ1ゴールを返されたが、数的優位の時間帯に李のキックパスから長田がインゴール右中間にトライを挙げた。ここでも李はコンバージョンキックを決めて21-7とした。
2本のPGで点差を詰められたものの、再三チャンスを演出してきた李が前半終了間際にトライ。後半4分には右サイドからグラバーキックで長田を走らせる。サポートに走ってリターンを受けると、オフロードパスでFL下川甲嗣のトライを演出した。いずれも李はコンバージョンキックを成功。相手にトライを許すキックはあったものの、この日のプレースキックは100%。カナダ、アメリカ戦に続き高い精度を誇った。
「15番として初めてスタートで出ましたけど、
試合は49―27でノーサイド。ジャパンがサモアに快勝し、14日の準決勝でアメリカを22-7で破ったフィジーの待つ決勝にコマを進めた。エディー・ジョーンズHCは試合後の会見で「我々としてはステップアップとなるような試合だったと思います」とチームの成長の手応えを口にした。その一方で課題についても言及。「特にラック周りのディフェンス、キックチェイスのディフェンスは今週の課題として取り組んでいきたい。フィジーはとても質の高い対戦相手となります。いい準備をして次の試合を迎えたい」と語った。
アメリカ戦の後半途中から起用した10立川-15李の組み合わせ。指揮官は狙いをこう説明した。
「前回のW杯が終わって、テストマッチで10番ができるのは松田力也だけでした。私としては、今後テストマッチでプレーができる10番の育成が早急の課題と思っています。現状、李が一番能力が見込めるかな、と考えている。今回、山沢(拓也)、そして矢崎(由高)が15番としては離脱してしまったので立川が10番、李が15番というのがバランスとしては最適かと思っています」
李のトライをアシストする場面もあり、堅実なゲームメイクが光った立川。「10番としてプレーしたのが9年ぶりということもあり、最初は少し緊張しました。実際に試合に入ってしまえばもうチームとしてやるべきこと、自分のやるべきことを明確にシンプルにやっていく」と振り返った。指揮官も全幅の信頼を寄せている。
「立川はとても落ち着いている。いい判断ができますし、今日はフィジカル面でも良かった。やはり立川というプレーヤーがチームに入ってきてくれることでの付加価値は多い」
立川の存在は李にも好影響を与えているようだ。
10立川-15李の組み合わせは、決勝でのファーストチョイスになりそうだ。
この日、パリパラリンピックで金メダルを獲得した車いすラグビー日本代表の主将、池透暢が来場した。試合前にピッチ上でスピーチ。試合前日にはジャパンの滞在先に訪れ、激励したという。その時の様子をジョーンズHCは「選手たちは30分間のスピーチに集中して耳を傾けていました。池さんの持つ謙虚さ、真剣さといったところは我々も学ぶことが多かったです」と振り返った。
「我々のような若いプレーヤーにとって、いかに日々感謝の気持ちを持ち続けるか、自分たちが幸運な環境にいるかということを知ることが必要です。我々ジャパンが現在トレーニングを続けている宮崎の合宿場に関してもワールドクラスの設備でとても素晴らしい。プレーヤーとしてもジャパンを代表してプレーをするというところに関してはそういったチャンスを持てているということを自覚し、そこに感謝することが大切だと思っています」
同じラグビーでもルールは大きく異なる。車いすラグビーはインドア(体育館、アリーナ)が試合会場で、パスを前方に投げることができる。得点はトライの1点。だが共通点もある。池は言う。
「僕が一番感じているのは、全員が日本の文化を持っているわけではない中で、多様性の尊重というところがすごく大切な競技という点だと思います。その中にきちんとしたリスペクトがある。そしてチームとして信じ合うところ、繋がりの部分が欠けると一気に流れを持っていかれるけれども、その繋がりが切れなければ最後まで素晴らしいラグビーを展開することができる。こういったところが共通点じゃないかと感じながら観ています」
ONE FOR ALL,ALL FOR ONEの精神はどちらにも共通するもので、チームのコネクションを深めることは勝利に必要なものだ。
「自分たちのスポーツは、全員が手や足に障がいを持ち、間違いなくできないことがある。そのできないことをできるようにするために、自分の力や努力も必要ですが、仲間の力だったり、スタッフの力だったり、いろいろな人の力を借りながら目的、目標を成し遂げていく。その中で必然的に感謝というものと、共同するというワードが無数に出てくると感じています。配慮も必要ですし、ラグビー、スポーツを通じて成長させてもらったので、スポーツのいろいろな場面で自分の感じたことも話しながら、またスポーツの発展に貢献していきたいと思っています」
まさに“金言”と呼べるようなメッセージの数々。池は今後に向けて、「金メダルを獲りましたが、歩みと挑戦をやめたら衰退が始まると思っています。新しいことに挑戦していきながら、新たな出会いから学んでいきたい」と前を見据えた。
(文・写真/杉浦泰介)