「シュリンプマン・キャッチ」
 そう名付けたのは元駐米大使の経歴を持つ加藤良三コミッショナーだ。
 カープの天谷宗一郎が「ジョージア魂」賞選考委員特別賞に輝いた。この賞は缶コーヒーブランドの「ジョージア」が今季からプロ野球12球団と提携、NPBパートナー契約を結んで設けられたものだ。

 

 

 対象となったプレーは8月22日、本拠地マツダスタジアムでの横浜戦でみせたスーパーキャッチ。
 横浜のブレット・ハーパーの放った打球は右中間スタンドに向かって一直線。カープファンの悲鳴がこだまする中、センターの天谷は打球の行方を追い、勢いよくフェンスによじのぼった。そして、エビ反りになりながらキャッチしてみせたのだ。
 なるほど「シュリンプマン・キャッチ」である。
「捕っちゃった。僕が一番ビックリした」
 試合直後の天谷の感想だ。

 実はカープの外野手は、この18日前にも凄いプレーを披露していた。
 同じくマツダスタジアムでの横浜戦。センター赤松真人が村田修一の放った左中間への大飛球をフェンスに駆け上がって好捕したのだ。
 このスーパープレーは「スパイダーマン・キャッチ」として米国でも紹介された。
「赤松さんがやっていたので、チャンスがあればと意識していた」
 つまり偶然ではなく、頭の隅でイメージしていたプレーだったのだ。
 名手・赤松の影響もあり、天谷の守備に対する意識は高い。
「ピッチャーとバッターの力関係で、僕は大胆に守備位置を変えるタイプ。(フェンスまで)何歩と計算しているわけではありませんが、ピッチャーが投げる前にカウントを見て、後ろのフェンスまでの距離がどのくらいかは絶対に確認するようにしています」

 天谷といえば、最近では珍しいドラフト9巡目の指名。今なら育成選手か。2002年、福井商高からカープに入団した。
――低い指名順位は気にならなかったのか。
「夢はプロ野球選手だったので順位は関係なかった。ただ(ドラフト)上位の選手には負けたくないという思いでここまでやってきました」
 同期入団は9名。当時、若手が暮らすカープの大野寮には空き部屋が人数分しかなかった。
「オマエは一番下なんだから、この部屋で我慢しろ」
 そう言って、天谷には一番汚い部屋があてがわれたという。

 そんな屈辱を反骨のエネルギーに変えて生き残ってきた。3年前にはレギュラーとなり、昨シーズンは規定打席不足ながら打率3割をマークした。
 今季は打撃不振もあり、2割4分5厘と低迷したが、左右に打ち分ける打撃技術には定評がある。
 チーム事情もあって3番を任されることが多いが、本来は1番か2番タイプだろう。そのほうが彼の実力もより発揮されるはずだ。

<この原稿は2010年12月26日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>


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