プロ野球・横浜ベイスターズの売却を巡り、親会社のTBSホールディングスと住生活グループが進めていた交渉は最終段階で破談になった。

 住生活グループは来春、トステムやINAXなど傘下5社を統合し「LIXIL(リクシル)」に社名を改める。買収した球団に社名を冠することで知名度を高める戦略を描いていたが、本拠地問題などがネックとなり、結局、合意には達しなかった。

 さる事情通が舞台裏を明かす。
「住生活グループは静岡、新潟などを準フランチャイズとする希望を持っていたがTBS側がこれを渋った。というのも球団とフランチャイズ球場の横浜スタジアムとの間には複雑な使用契約があり、これを破棄すると違約金が発生する可能性があった。
 といって今の球場を使い続けていたのでは球団を黒字にするのは困難。入場料収入の25%を取られることに加え、売店や広告看板収入は全てスタジアムのもの。これを嫌って住生活グループは本拠地の移転を探ったのですが、いろいろとしがらみがあって現時点でベイスターズを買収するのは得策ではないと判断したようです」

 ベイスターズは年間約20億円の赤字を出している。これを親会社が広告宣伝費として損失補填してきたが、2010年3月期にTBSホールディングスが23億円の連結最終赤字を計上したことで“お荷物”になってきていた。
 売却交渉が頓挫したことでTBSホールディングスは来季もしぶしぶベイスターズの親会社を続けることになるが窮状を打開する目処は何ひとつ立っていない。
 これまでセ・リーグの球団にとって売り上げの柱となっていたのが巨人戦の放映権料である。かつては1試合約1億円が相場で、ホームゲーム14試合(シーズン140試合制時)で約14億円。だが地上波から巨人戦のかなりの部分が消えたことで、球団によっては放映権収入が10年前の4分の1程度にまで落ち込んだと言われている。

 もとより巨人戦の放映権収入を期待できなかったパ・リーグの球団は早々と「地域密着」の理念を打ち出し、入場料収入に活路を求めた。その第一歩としてファンサービスに積極的に取り組み、セ・リーグとの人気格差はかなり解消された。
 一方で巨人戦の放映権料にあぐらをかいていたセ・リーグ球団の経営は旧態依然としたままでファンサービスやチーム強化もパ・リーグの球団に比べると不熱心と言わざるを得ない。
 それが証拠に今季の交流戦は1位から6位までをパ・リーグの球団が占め、話題をさらった。口さがない関係者からは「サッカーならパ・リーグが一部リーグでセ・リーグが二部リーグだな」という声も漏れた。

 ベイスターズは「弱いセ・リーグ」にあっても最も弱い球団である。3年連続最下位。今季の勝率は3割3分6厘だった。村田修一、内川聖一ら第2回WBC優勝の言動力となった日本代表を抱えながらチーム状況は一向に好転しない。
 低迷の最大の理由はフロントにチームづくりに対する確固たる理念がないことである。しかし、今からそれを嘆いても仕方がない。なぜならTBSがマルハから球団を買収したのも、元々はフジサンケイグループによるヤクルトとの二重株主問題の解消が目的であり、最初から球団買収に乗り気だったわけではない。
 心配なのはチームの士気である。来季、選手たちが「FOR SALE」の看板がかかったチームに忠誠を尽くせるだろうか。メジャーリーグでは球団の売買は日常茶飯事であり、オーナーが変わったからといってチーム名が変わったり、方針が揺らぐことはない。買収劇はファンや選手たちを不安にさせないよう、すみやかに完了する。日本も早くこうならなければいけない。

<この原稿は2010年11月12日付『電気新聞』に掲載されたものです>

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