2010年という年は、日本サッカー界にとってターニング・ポイントとして記憶されることになるかもしれない。
 きっかけとなったのは、もちろんW杯でのベスト16進出である。個人的には、きちんとした準備をしていれば、結果はともかく、内容はもっと見るべきものが多いチームになったはずだとの思いはある。ただ、ベスト16という結果が、どんな名監督であっても簡単に成し得た結果ではなかったことも間違いない。
 ともあれ、この結果によって、W杯ドイツ大会以降暴落していた日本選手の評価額を一気に上向かせた。そして、W杯に出場できなかった、それも去年までは日本の2部リーグに所属していた選手、香川の活躍で、欧州における日本選手に対するニーズは、史上最高レベルにまで高まったといえる。

 問題は、ここからである。
 日本選手の評価が高まったのは、もちろん悪いことではない。だが、サッカーの世界で国際的な評価が高まるということは、すなわち選手のギャラが高くなるということでもある。
 Jリーグのギャラは、世界の趨勢に対応できているだろうか。
 ずいぶんと前から、Jリーグでは「身の丈にあった経営」が推奨されてきた。確かに、同様の哲学で貫き続けているドイツ・ブンデスリーガの堅調な経営ぶりを見ても、マネーゲーム、バブルに背を向けるスタイルは長期的に見ても間違ってはいないと思う。
 だが、サッカーが人気ナンバーワンスポーツとして不動の地位を確立しているドイツでの「身の丈」と、まだまだ野球人気には及ばないところもある「身の丈」とでは、金額の規模に相当な違いがある。それが日本の現状と言ってしまえばそれまでなのだが、残念ながら、若い選手にとってJリーグは創成期ほどには魅力的な場所ではなくなってしまった。

 結果、資金力に勝る欧州のクラブからすると、日本サッカー界は選手獲得の草刈り場となる可能性がある。
 W杯でベスト16に入ったということは、日本には世界で16番目程度の実力がある、と見なしてくれる国が増えたことでもある。現状のJリーグは、世界で16番目のギャラを提供できているか。いるのならばいい。だが、世界のトップリーグでトップクラスのギャラを受けてとっていてもおかしくない選手が、格安の値段でプレーしているということが認知されたらどうなるか。「身の丈」主義でここ10年過ごしてきたJリーグにとって、方向転換を余儀なくされるきっかけとなるかもしれない2010年である。

<この原稿は10年12月16日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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