国内のマラソンブームが続く中、元祖「初心者参加型マラソン」であるホノルルマラソンが今年も12月12日に好天の中で開催され、2万3千人の参加者で盛り上がった。私もいつものようにJALPAKツアーのコーチとして、ツアー参加者のお手伝いをしに行ってきた。いろんな方がいらっしゃるのだが、驚くべきは昨年89歳で参加された後藤さん。今年も90歳で参加し、見事に9時間台で完走された。
(写真:今年も花火でスタート)
 日本人男性の平均寿命が79歳。ほとんどの方が90歳を迎えることなく生涯を終えるのだから、この歳まで生きていることでも素晴らしい。なのに、その歳を迎えてまだランニングが出来る。そして、普通の若者でも大変なマラソンをこなしてしまうのである。「マラソンなんて厳しくて出来ません」と常々語っている方々には少々耳の痛い話だろう。そしてさらに驚くべきは、なんと一人でツアーに参加し、一人でハワイまで来られているのである!?  90歳になって一人で海外旅行をされるとは……、少なくとも私は今まで聞いたことがない。それだけ本人も家族も自信があるという事なのだろう。ちなみに昨年は娘さんが帯同して来られた。その際にお話しを聞くと、「私はもう歳なのでとても走れません」というコメント。娘さんと言っても60代後半、まあ考えたら普通のコメントなのだが、当時89歳の後藤さんの横で言われると、ちょっと違和感を覚えたりして。そういえばその際に、現地スタッフが、「89歳の方が来るのでケアしなければ」と準備していたのだが、到着時に挨拶をしたら「あの〜、私は娘なのですが」と言われたとか。そう、つまり本人と娘さんを間違えたという笑い話が残っている。
(写真:90歳の後藤さん)

 とにかく見た目は普通のお爺ちゃん(?)でも、スーパー90歳の後藤さん。今年も飄々と、マイペースで走り続け9時間台で戻ってきた。そして、その夜に行われたツアーの完走パーティーに参加されているのである。パーティーでも普通に食べて、普通にゲームなどに参加し、21時の閉会まで楽しまれていた。いったいどんな身体になっているのやら。マラソンを始めたのは67歳。かなりの晩成ランナーという事になるけど、それでもマラソン歴23年!? 別れ際には「来年も参加します!」と元気に話してくれた。

 こんな風に歳を重ねられるなら、本当に素晴らしいとあらためて感心しながら再会の固い握手を交わさせて頂いた。後藤さん、来年も待っていますよ!
(写真:朝日の中を走る)

 また、もう一人は関西からお越し頂いたNさん。実はホノルルには17回も参加されているベテランである。私のツアーにも数年前から夫婦で参加し、仲の良いおしどり夫婦としてよく覚えている。ところが昨年は参加されず、少々気になっていたのだが、今年はお一人で登場された。ご挨拶させて頂くと、「昨年はお父さんのがんの闘病でこられませんでした。そして今年はちゃんと連れてきましたよ。」と写真を見せてくださった。さすがにすぐに言葉が出なかったが、Nさんの静かな笑顔が救いだった。きっと想像できない悲しみを体験されたのだろう。そしてスタート地点、お父さんの写真を背中に張ったNさんの姿があった。「かならず二人で完走してくださいね」となぜが私の眼がしらが熱くなってしまった。闘病中も、「またホノルルを走るんだ」と何度も話していたそうだ。病室で何度も夢に見たホノルルのスタート地点でNさんは何を思ったのだろうか。

 もちろん、ベテランのNさんは危なげなく完走。これまでとは違う二人のマラソンを終えた。こんな素敵な夫婦で、お父さんも幸せだっただろう。もちろん、大切な思い出の詰まったホノルルマラソンに来年もお二人で参加してくれるそうだ。
(写真:この瞬間の為にそれぞれが頑張る)

 マラソンは参加者すべてのストーリーがある。皆がそのストーリーの中で主役だ。

 そして人は走りながら、多くの事を考え、多くの人を想う。
 そして人生を乗せて走るのだ。

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)が発売中。
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