永井謙佑に学ぶスピードの使い方
35歳にしてこのスピード、恐るべしである。
台風の影響によって延期となっていたJ1、名古屋グランパスとアルビレックス新潟の一戦が18日、豊田スタジアムで行なわれた。
グランパスが1-0として迎えた前半44分だった。自陣のセンターサークル付近で相手のトラップが流れたところを椎橋慧也が奪い、すぐさま前方のスペースにパスを出す。ここで飛び出したのが“韋駄天”永井謙佑である。彼は両センターバックの間に入って、出撃体勢を整えていた。
一瞬にしてトップスピードに乗ってボールを受け取るとドリブルでゴール前まで持ち運び、相手GKの動きをしっかり見てゴール左に蹴り込んでいる。今季チームトップタイとなる5ゴール目となった。チームは3-0と快勝し、順位を9位に上げた。
随分と昔、永井から聞いたアリエン・ロッベンの話がふと思い出された。
「(ロッベンは)速いだけじゃない。シュートを最も打ちやすいところまで最終的にドリブルで持っていくんです」
まさにこのイメージ。加えて、駆け引きの妙があった。追いかけてくるトーマス・デンの前にドリブルで入って相手のスピードを落とさせ、こちらもギアを下げてシュートに集中を注ぐという永井お得意のパターン。ロッベンを参考にしつつ、自分の技としてきたものでもある。運ぶコースやスピードが少しでもかみ合っていなかったら、決してこのようにうまくはいかなかったはずだ。
相手に体を当てられてしまえば、当然スピードも落ちる。相手に触られない位置から出ていき、そのまま体を当てられることなくゴールへと結びつけている。自分のスピードをどう活かし、相手のスピードをどう殺すか。体に染みつかせてきたからこその芸当である。
年を重ねていけば体力が落ちてくるのは仕方のないこと。それでも前線からの守備は手を抜かず、二度追い、三度追いもしっかりとやる。守備の強度を落とすことなく、スピードをちらつかせながら相手にストレスを与えていく。無論、日々のトレーニングの賜物ではあるものの、若いときのようにスピードの乱発はできない。勝負どころで一瞬の爆発力という切り札を使うための準備と駆け引きがアルビレックス戦でのゴールには詰まっていた。
永井を最初に取材したのは、彼がまだ福岡大時代のころだった。走って車に追いついただの、自分で出したパスに追いついただのと、いくつもの“爆走伝説”を持っていた。
印象深かった話が、九州国際大付属高サッカー部での下半身強化。これでもかというほどに走らされたという。
「学校が山の上だったんで、階段や坂道を使ってダッシュやケンケンで上がったりして、それも50本、60本とやらされていました。それも急な勾配で。雨が降るとトップチームだけがグラウンドを使えたので、雨の日はもう地獄(笑)。おかげで足の筋力はかなりつきましたけど、もう1回やれと言われたら自信ないです(笑)。
(50m走を)1回目に計ったときにコーチが『5秒8っておかしいな』っていうんで、もう一度はかったら同じぐらいのタイムでした。このときから足が速いのかなって自覚するようになったんです」
走って、走って、走って。
2012年のロンドンオリンピックではエースとしてチームのベスト4入りに貢献し、日本代表でも通算12試合3ゴールのキャリアを誇る。今年5月には史上31人目となるJ1通算400試合出場を達成。永井の走りが、チームを勇気づけ、奮い立たせてきた。
グランパスを率いる長谷川健太監督は永井にとっての恩師。一時期、結果が思ったように出ず、悩んだ時期もあったなかでFC東京時代に復活を果たすことができたのも指揮官のアドバイスが大きかったという。
永井がこう明かしてくれたことがある。
「監督からは“仕掛けろ”と言われます。そしてフォワードなんだから、外してもいいからとにかくシュートを打て、と。試合のなかで1回決めればいいんだ、と」
FC東京が2位となった2019年シーズンに9得点を挙げて以降、なかなかゴールを積み上げることができていない。それでもチームへの貢献とストライカーとしての怖さを買われ、長谷川監督が指揮を執るグランパスに復帰してからもコンスタントに起用されている。
衰え知らずで、駆け引きじょうず。
今回のようなスピードを活かした永井らしいゴールにこれからも期待したい。