今シーズンのアイランドリーグは思っていた以上に成果の現れた1年でした。まず、我々がリーグの柱としている育成面では過去最多タイの6選手がドラフトで指名を受けました。そのうち3選手は本ドラフトでの指名で、これはリーグ創設以来初めてのことです。さらには昨季、福岡に在籍していた秋親投手が千葉ロッテ入りし、NPB復帰を果たしました。またリーグでプレーしていたディオーニ・ソリアーノ(広島)、フランシスコ・カラバイヨ(オリックス)が1軍で活躍。オフには徳島の加藤博人コーチが東京ヤクルトの2軍投手コーチに就任し、NPB球団のスタッフとして採用された元選手もいます。市川貴之審判もNPBの1軍戦で球審を務めるなど、このリーグが野球に携わる人間にとって、次のステップへの登竜門として認められたのではないかと感じています。
 経営面でもリーマンショック以降の景気の落ち込みに翻弄されるなか、愛媛、香川、高知の各球団は赤字ながらも過去最高の決算内容となる見込みです。6年間、地域に密着した活動を続けた成果が地元の行政、企業の厚いバックアップとなって現れてきています。一方で徳島球団は開幕前にオーナーが不在となり、来季も引き続きリーグが運営を肩代わりしなくてはならない状況です。また九州で唯一の球団となっていた長崎も今シーズン限りでの撤退を余儀なくされました。うまく軌道に乗り始めた球団と、そうではない球団が完全に二極化したシーズンだったと言えるでしょう。

 その両者の差を分けるものは、やはり地域への貢献度です。県をはじめとする自治体から6000万円の出資を受けた愛媛をはじめ、高知、香川では年間150〜200回の地域貢献活動を実施しています。対する徳島はわずか29回。各チームともホームゲームの試合数は一緒ですから、球団を認知してもらい、支援してもらうためには球場外での活動は極めて重要です。独立リーグは野球だけでお客さんを引き付けられるほど、MLBやNPBにように有名選手がいるわけでも、ハイレベルな試合をお見せできるわけでもありません。野球とは関係なく、いかに多くの人を巻き込み、応援していただけるきっかけをつくれるか。ここが何より大切です。実際にうまく運営ができつつある3県に足を運んでいただければ、選手が野球教室やイベントで積極的に住民の方とふれあい、「地元のチームを応援しよう」という空気を感じていただけるのではないでしょうか。来季は徳島でも野球以外での活動を増やすことで、地域に根付く土台づくりをしていきたいと考えています。

 ただ、観客動員の面では1試合平均の観客動員数は633人と昨季(782人)から減少してしまいました。今年は例年にない酷暑で夏場のデーゲームは集客面で厳しかった点も影響しています。来季はもう少し球場にお客さんを呼ぶ工夫も求められるでしょう。多くの方に試合を観ていただくことは大切な半面、その中身が無料券だらけではプロスポーツとして必要な入場料収入が確保できません。そのバランスをどうとるのかは、まだ各球団とも試行錯誤の最中です。そんな中、高知はナイター設備もなく1試合平均が677人と決して多い観客数ではありませんが、有料入場者数は9割を越え、前年より動員を伸ばしています。2012年には待望の照明設備が高知球場に設置予定です。こういったインフラやアクセス面が整備されれば、より多くのみなさんに試合を楽しんでいただける機会が増えると感じています。

 今季、アイランドリーグはひとつのチャレンジをしました。試合時間の短縮です。イニング間のインターバルなどで細かいルールを決め、それぞれに目標タイムを決め、審判と各チームが一体となって取り組みました。その結果、3時間を超えていた試合時間が2時間50分に短縮されたのです。18時に始まった試合が21時に終われば、もっと子どもたちやファミリーも球場に足を運びやすくなります。この試みは来季以降も継続するつもりです。

 2011年はジャパン・フューチャーベースボールリーグ(JFBL)から三重スリーアローズが参入し、今季同様5球団体制でのシーズンとなります。「もう四国内だけで運営していくべきではないか」。参入に関してはそんな意見があったことも事実です。しかし、私たちには野球独立リーグの先駆者として、この流れを広げ、より多くの選手たちにチャンスを与える使命があります。確かに運営は大変かもしれませんが、縮小均衡からは何も生まれません。関西独立リーグが経営難からNPO法人化し、JFBLも活動休止をするなか、新たなリーグを1からつくることは多大なエネルギーを必要とします。それでも球団単位であれば立ち上げたいという動きは西日本にいくつも存在します。たとえば岡山では来季、再びリーグの試合を開催し、もう1度、新球団創設への機運を高めたいとの打診を頂いています。アイランドリーグは、そんなチームの受け皿として機能していきたいのです。

「球団が分散化すると遠征費が高騰して球団経営を圧迫する」との声がありますが、それはあまり大きな問題ではありません。なぜなら試合数が変わらなければ、四国4県でやっても、三重を加えてもビジターで遠征する回数は変わらないからです。確かに移動距離が長くなれば、その分、バス代や宿泊費はかかりますが、出費が増えるのは年間で数百万円程度でしょう。球団の年間運営費が約1億3000万円であることを考えれば、経営に与える影響は小さいものです。もちろん、毎回、四国に遠征が必要な三重は負担が大きくなります。そのリスクを背負ってでもアイランドリーグの仲間になりたいと申し出た三重の覚悟を拒絶する理由はないと考えました。

 関西独立リーグの経営難もあり、「アイランドリーグも経営が苦しい」とのイメージをもたれている読者の方は多いのではないでしょうか。確かに先に述べたようにリーグと球団は創設以来、赤字が続いています。観客動員も伸びてはいません。しかし、6年間、リーグ、球団を運営する中で、我々は10年、20年と持続可能な体制づくりをしてきました。資本金もリーグは約5億円まで増資してきましたし、入場料収入に左右されないよう、チームスポンサーを広く浅く集めることに各球団は知恵を絞っています。 

 当然、黒字化は将来的な目標ではありますが、今はそれよりも地域に愛される球団になるよう投資をし、いい人材を育てることが大切だと考えています。まだリーグが誕生して来季で7年目です。歴史を振り返れば今や不動の地位を確立したMLBやNPBも黎明期には紆余曲折がありました。個人的には最初の10年はさまざまなチャレンジをし、失敗に学びながら何十年も存続できる強いリーグ、強い球団をつくる助走期間と捉えています。そして10年目以降、経営面でも育成面でも評価していただけるリーグに発展させたいとの強い気持ちを持っています。ですから、ファンのみなさんには引き続き、長く温かい目でリーグを見守っていただければうれしいです。

 来季は福岡ソフトバンクが育成選手を増やして3軍制を敷き、アイランドリーグなどとの実戦を増やすプランを示しています。詳細については現在交渉中ですが、おそらく各チームの試合数を減らすことなく、逆にNPBとの対戦が増えることになるでしょう。NPBとの距離の近さは、夢を叶えたい選手たちにとっても大きなアピールポイントとなるはずです。

 実はこの春、MLBの球団からアイランドリーグに対して、日本、韓国、台湾、中国などアジアでスカウトした選手を派遣して育成したいとの申し出がありました。海の向こうから我々の存在を認めていただいたことをうれしく感じると同時に、MLBの巧みな世界戦略を実感しました。日本ではNPB、独立リーグ、アマチュア野球と組織がバラバラでまだまだ交流は盛んとはいえません。現在、トップ選手のFAでの流出が問題になっているものの、日本球界全体で若いスターを育てるシステムを作らなければ、足元をすくわれてしまうのではないでしょうか。人材流出を食い止める意味でも、もっと独立リーグを活用してほしいと感じています。

 2011年も目標に向かって白球を追いかける若い選手たちをアイランドリーグは応援していきます。今年1年間、球場内外での応援、本当にありがとうございました。新しいシーズンも更なるご支援をよろしくお願いします。


鍵山誠(かぎやま・まこと)プロフィール>:株式会社IBLJ代表取締役社長
 1967年6月8日、大分県出身。徳島・池田高、九州産業大卒。インターネットカフェ「ファンキータイム」などを手がける株式会社S.R.D(徳島県三好市)代表取締役を経て、現在は生コン製造会社で経営多角化を進める株式会社セイア(徳島県三好市)専務取締役、株式会社AIRIS(東京都千代田区)代表取締役。アイランドリーグ関係では05年5月、徳島インディゴソックスGMに就任。同年9月からIBLJ専務取締役を経て、07年3月よりリーグを創設した石毛宏典氏の社長退任に伴って現職に。07年12月より四国・九州アイランドリーグCEOに就任。
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