みなさん、はじめまして。今回、愛媛の監督を務めることになった星野おさむです。監督の要請をいただいたのは昨年の秋。僕は楽天からコーチ契約を更新しないことを告げられ、新しい仕事場を探していました。そんな時、薬師神績代表がわざわざ仙台まで来られて就任の打診を受けたのです。
 実はその時点では、独立リーグの指導者という選択肢はあまり頭の中にありませんでした。なぜなら僕は2005年の現役引退以降、楽天でコーチをしていたため、独立リーグの試合を1回も見たことがなかったからです。強いて言えば、フェニックスリーグでアイランドリーグの選抜チームと対戦した印象が少しあるくらいでした。その時に感じたのは、選抜メンバーに選ばれている選手たちは「2軍のレギュラークラスの実力はあるな」というもの。「なんでドラフトされないんだろう」と不思議に思ったことを覚えています。

 薬師神代表からは、チーム体制を一新して新たな球団の歴史をスタートさせたいこと、今後のビジョンについて、熱心に説明をいただきました。そのうちに独立リーグの監督にも興味が沸いてきたのです。もちろん、監督業は初めてですから、やってみないと分からない点はたくさんあります。昨季、本塁打、打点の2冠に輝いた西村悟やクローザーの徳田将至ら主力も多く退団したと聞き、チームは戦力的にも未知数です。ある意味、選手を育てながら勝つのはNPBの指導者よりも難しい仕事でしょう。

 現役、コーチとさまざまな監督に仕えましたが、やはり野村克也さんから教わったことはベースになっています。野村さんには現役時代(阪神)に3年間、コーチになってからも4年間、お世話になりました。野村さんとの思い出は怒られた記憶しかありません。たとえば阪神時代、走者を進めなくてはいけない場面で、つなぎの打撃をしなかった際には、試合中にベンチで立たされて説教されました。

「オマエは自分の能力で戦っているだけや!」
 当時はその意味が充分に理解できず、野村さんから僕は「劣等生」のレッテルを貼られていたようです。でも現役を退いて指導者の立場になってみると、言われた一言一言が身にしみて分かります。楽天で選手たちに指導してきたことは、まさしく野村さんから教わったものが基本です。

 そして阪神の2軍時代にお世話になったオリックス・岡田彰布監督からも大きな影響を受けています。当時、2軍の指揮を執っていた岡田監督はオフのイベントなどで顔を合わせると、よく食事に連れていっていただきました。その席ではシーズン中の僕のプレーについて、いろいろとアドバイスをいただいたのです。「あの場面は、オマエはホームランを打たなきゃいけない打席だったぞ!」。岡田監督は試合の状況や相手ピッチャーについて細かく記憶しており、その上で、僕の実力であれば違った結果が出たはずだと厳しく指摘していただきました。

 岡田監督がそれだけ選手を観察していること、野球を深く理解し、ものすごい計算をしていることに僕は驚かされました。監督はその上で、「ここは絶対打てる」「ここは絶対抑えられる」と選手に信頼を寄せて起用しているのです。昨季より楽天の2軍を率いている仁村徹監督も同じタイプの指導者でした。こういった指揮官としての姿勢、勝負勘はぜひ見習いたいと考えています。

 監督就任にあたり、まず愛媛での最初の仕事は選手たちをしっかりと見ることになるでしょう。そして、どのように育成するかコーチと相談してプランを決めるのが次の作業でです。もちろんシーズンが始まれば、優勝にこだわって試合をすることは当たり前です。ただし、その中でも選手育成のプランはブラさず守っていきたいと思っています。

「オマエは自分の能力で戦っているだけや!」
 先述したように僕はそう野村さんに怒られました。確かに1軍で何年も活躍し、一流になるには能力だけでは不可能です。一方でプロに入り、1軍へ行くには最低限の能力がなくてはいけないことも事実でしょう。少々、荒削りでもどこかひとつ他より突き抜けたものがあればそれでいい。僕はプロ入りする若い選手たちに関して、こう感じています。

 楽天のコーチ時代、丈武、松井宏次とアイランドリーグ出身の選手を指導しました。2人とも素材としてはいいものを持っています。しかし、技術的なクセがあったため、楽天入団後はファームでその改善に取り組みました。課題は2人とも克服しつつありますから、今季はきっと成果が出てくるはずです。ただ、最初からクセの少ない状態であれば、まわり道をしなくても良かったかもしれません。結果を求めて小さな完成形でまとまってしまうより、どのような形にも修正可能な選手のほうが、NPBでは指導しやすいのです。僕はこのような経験を踏まえた上で、コーチ陣と協力しながら伸びしろのある選手をひとりでも多く育てたいと考えています。

 今回のお話が決まり、僕は家族とともに愛媛に引っ越すことを決めました。身も心も愛媛人として、球団とファンの期待に応えたいと思っています。まだ愛媛のことは右も左も分かりませんが、これまで同様、マンダリンパイレーツに温かい応援をよろしくお願いします。


星野おさむ(ほしの・おさむ)プロフィール>:愛媛マンダリンパイレーツ監督
 1970年5月4日、埼玉県出身。埼玉県立福岡高を経て、89年にドラフト外で阪神に入団。内野のユーティリティープレーヤーとして、93年に1軍デビューを果たすと、97年には117試合に出場。翌年には開幕スタメンで起用される。02年にテストを経て近鉄へ。04年に近鉄球団が合併で消滅する際には、本拠地最終戦でサヨナラ打を放つ。05年に分配ドラフトで楽天に移籍し、同年限りで引退。06年からは2軍守備走塁コーチ、2軍打撃コーチなどを務めた。11年より愛媛の監督に就任。
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