“革命”のパリパラリンピック<後編>「技術革新と制度改革」
――パラリンピックでは2016年リオデジャネイロ大会から3大会連続で難民選手団が結成されています。パリ大会では過去最多の8選手が出場しました。
二宮清純: 私は以前、難民選手団の旗手(リオデジャネイロ大会)を務め、パリ大会ではパラトライアスロンに出場したシリア出身のイブラヒム・アル・フセイン選手と対談したことがあります。難民選手団は個人競技や種目に出場できても団体競技には出られない。彼は車いすバスケットボールでもプレーしていて、いつかは難民選手団として団体競技に出場したいという夢を語ってくれました。
伊藤数子: それは賛成です。今大会、車いすテニスの上地結衣選手が女子シングルス&ダブルスの2冠を達成しました。女子ダブルスでペアを組んだ田中愛美選手が「ペアを組むのが田中だから負けた、とは言わせないと思った」とコメントしていました。4大大会の場合、上地選手は外国の選手とダブルスを組んでいます。パラリンピックでは異なる国籍のペアは出場できません。今回の田中選手の場合はモチベーションになったし、よかったと思います。しかしこれからは、オリンピックもパラリンピックも国別対抗戦ではないことを考えれば、国籍主義にこだわる必要はないと思うんです。
二宮: それもいいアイディアですね。オリンピック憲章には<個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない>と記されています。
伊藤: しかし、メディアでは、いまだにオリンピック・パラリンピックの国・地域別メダル獲得数がランキング化されて報じられています。その点は違和感を禁じ得ません。
二宮: これを私は、オリンピックの“金本位主義”と呼んでいます。今後は、クラス分けをもっと細分化してもいいのではないか。メダルのインフレ化というか、価値の相対化というかはともかく、パラリンピックはオリンピックとは違う道を歩んでもいい。
伊藤: オリンピックと同じである必要はありませんからね。パラリンピックが多様性、独自性を追求していくのもいいかもしれないですね。
二宮: 多様性という点では、自転車の女子個人ロードレースで53歳の杉浦佳子選手がパラリンピック連覇を果たした。10代でもメダルを獲れるけど、50代を超えても獲れるというのがいい。年齢のバリアフリー化ですね。
好評の「ぴったり字幕」
伊藤: 杉浦選手は東京大会で金メダルを獲った後、「最年少記録は二度とつくれないけど、最年長記録はいくらでも更新できる」とコメントしていました。
二宮: まさに有言実行でしたね。人間は年を取ると、何かしら補助具に頼らざるを得なくなる。車椅子などを使いこなすパラアスリートの姿は、高齢者にとってひとつの手本になります。
伊藤: パラリンピックの影響で、パラスポーツの理解が少しずつ進んでいる一方で、いまだに体育館で車いすを使えないといった現状がある。
二宮: パリ大会で2冠を達成したパラ水泳の木村敬一選手は腕の傷が絶えない。ガイド代わりにしているコースロープが当たるからです。もっと腕に優しいコースロープでレースをさせてあげることはできないものか。いずれにしてもバリアフリーの重要性を謳うパラリンピックにおいて、プールの中にバリアーが存在するという大いなる皮肉です。
――今後に向けての展望は?
二宮: 来年11月にはデフリンピックが東京で開催されます。耳に障がいのある人たちのために、どういうギアやテクノロジーが開発されるのか。年を取れば耳も遠くなる。超高齢社会においては、身近な大会です。
伊藤: そうですね。東京大会でも導入されたNHKの「ぴったり字幕」はパリ大会でも好評だったと聞きます。それまで生放送における字幕はラグが生じてしまい、映像で字幕がずれることで視聴者から不満の声があがっていた。そこで実際の映像を遅らせて流すことで、字幕と映像のずれを解消したんです。これも“革命”のひとつと言っていいでしょう。
二宮: 1964年の東京オリンピックでスローモーションVTR、衛星放送による大陸を越えた映像の生中継が導入されるなど、オリンピックとTV放送における技術革新は密接な関係にあります。だが今後は、パラリンピックが技術革新のショーケースとなるのではないでしょうか。
(おわり)