“革命”のパリパラリンピック<前編>「目ではなく“心”で見る」

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 過去最多となる168の国・地域と難民選手団から約4400人が参加したパリパラリンピックは8月28日から9月8日までの12日間にわたって行われ、22競技549種目で熱戦が繰り広げられた。今回の「二宮清純の視点」は二宮清純と「挑戦者たち」編集長・伊藤数子によるスペシャル対談。パリの熱狂を振り返るとともに、パラスポーツの未来をも展望する。

 

――今大会を通じて、一番印象に残ったシーンは?

 

伊藤数子: まず私が印象に残ったのは開会式です。大会組織委員会のトニー・エスタンゲ会長が「革命」という言葉を繰り返していました。「パラリンピックの選手たちは新しい世界を拓いてく革命家なんだ」と。二宮さんも「オリンピック・パラリンピックは社会変革活動である」とおっしゃっていたので、同じようなことを言っていると感じました。

 

二宮清純: 開会式が行われたコンコルド広場は、かつて「革命広場」と呼ばれていました。

 

伊藤: 車いすフェンシングとパラテコンドーの競技会場となった「グラン・パレ」は1900年の万国博覧会開催の際に建設され、以来、数々の美術展覧会やファッションショーが行われた歴史的建造物です。大会運営のためにバリアフリー設備をたくさん造られたそうです。これも革命のひとつだな、と感じました。パラリンピック開催によって、自分たちのまち、そして100年以上の歴史的な建造物ですら変えることを厭わない。パラリンピックの力を実感しました。

 

二宮: そうですね。グラン・パレのあるパリのセーヌ河岸は世界遺産にも指定されているエリアです。日本で、あのようなことは簡単にはできないでしょう。

 

伊藤: オリンピック・パラリンピックのために造られたものかと思うぐらいマッチしていましたね。ブラインドサッカーの会場エッフェル塔スタジアムは、その名の通り、スタジアムの奥にエッフェル塔が見えた。景観の中に設計されているスタジアムだと感心しました。地域の全体像を俯瞰で見て、デザインしているんだなぁ、と。

 

車いすラグビーによる“メッセージ”

 

二宮: 競技で気になったのは?

 

伊藤: 視覚障がい者柔道ですね。パラリンピックではパリ大会から全盲(J1)と弱視(J2)の2つのクラスに分けられることになりましたが、女子48キロ級(J1)で銀メダルを獲得した半谷静香選手が、こんなことを言っていました。「相手の足、釣り手、引き手の位置が、練習をしていると見えるようになってきた」と。テレビ中継で解説されていた日本視覚障がい者柔道連盟の初瀬勇輔会長も「見える」という言葉を多用していました。「〇〇選手、相手の動きがしっかり見えていますね!」と。

 

二宮:目で見えるというより心で見ている。感覚でわかるということなんでしょうね。

 

伊藤: その通りです。体から伝わってくる感覚で、「分かる」ことを「見える」と表現しているんです。視覚に障がいのある人たちが「見える」という言葉を連発していて、そこに違和感を覚えなかった。社会が変わる言葉だなと感じました。

 

二宮: なるほど。それはすごく面白いですね。我々の認識では「見える」は目で見ることという固定観念がある。しかし、心でも「見える」ことがある……。

 

伊藤: 二宮さんがパリパラリンピックで印象に残った競技は?

 

二宮: 金メダルを獲得した車いすラグビー日本代表です。車いすラグビーには、障がいに応じた持ち点があり、一度にコートに出られる選手の合計点数の上限が決まっています。女性選手が入ると0.5点緩和される。あれはいいルールですね。日本唯一の女性選手である倉橋香衣選手も身を挺してディフェンスし、守備で貢献していました。ハイポインター(障がいの軽く持ち点が高い選手)やローポインターそれぞれに役割や居場所がある。共生社会を体現する車いすラグビーの金メダルは、非常に価値のあることだと思います。

 

伊藤: そういったルールの工夫で公平性を担保する。社会に応用できないわけがないですね。素晴らしいメッセージになったと感じました。

 

 

(後編につづく)

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NPO法人STAND

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NPO法人STAND代表の伊藤数子さんと二宮清純が探る新たなスポーツの地平線にご期待ください。

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