前回に続き、スカパー!のゴルフ特別番組「タイガー・ウッズ×石川遼 〜everyone meets the dream〜」の収録の模様を紹介しよう。タイガーと石川にはいくつかの共通項がある。まず、ゴルフを始めるにあたり、父親の存在が大きかったことだ。タイガーは父のアールから生後9カ月でゴルフを教わった。自宅の車庫を改造した練習場がスーパースターの原点だった。一方、石川は幼少時から父・勝美が自宅の庭につくった小さなコースでゴルフを楽しんだ。

「父の存在なしに今の自分はない」

 対談の中で、石川はゴルフを始めたきっかけについて、次のように語っている。
「僕が初めて握ったゴルフクラブはお父さんが自分のクラブを30センチぐらいに切って、、3歳ぐらいの僕に与えてくれたものです。お父さんは家の庭で素振りをするのが好きで、僕もそれをずっと見ていました。興味を示した僕にそのクラブを与えてくれたんですね。それが僕とゴルフの出会いです」

 実は子供の頃、石川が最初になりたかった職業はトラックの運転手だった。すると勝美はトラックを持っている知人の家へ石川を連れて行き、実際にトラックを体験させたそうだ。また自らが務める信用金庫にも、息子同伴で出社したこともある。子供にとって親は社会への最初の窓だ。勝美は仕事の現場を子供にみせることで、その仕事がどのように社会に貢献しているかを子供に認識させたかったのだろう。

「本当に僕の夢に対して、いろんなチャンスを与えてくれています。ゴルフを真剣にやるようになって、自分が目指すものができあがると、お父さんはすごく厳しくなりました。このままでは一番にはなれない、いいプレーヤーになれないと思ったら、いつも叱ってくれました。もちろん、今でもそれは変わりません。お父さんがいないと僕はまだまだダメだなと思います」

 タイガーも「父の存在なしに今の自分は考えられない」と明かす。
「なにしろゴルフを始めるきっかけになったのはお父さん。ゴルフが楽しいということを教えてもらったのはお父さん。“チャレンジだ。挑戦しなきゃいけない”ということを教えてもらったのもお父さん……。人生についても色んなことを教わりました。おかげで非常に楽しく面白い、興味深い子供時代を過ごせたと思っています」

 勉強にしろスポーツにしろ芸術にしろ、子供の教育に熱心な親は、どの世界にもたくさんいる。しかし、親がいくらいい環境を用意したところで、すべての子供が期待通りに育つとは限らない。ではタイガーと石川はなぜ一流アスリートになり得たのか。対談を通じ、私はもうひとつの共通項を見出すことができた。

 好きこそものの上手なれ

 それは2人とも誰よりもゴルフが大好きだということだ。石川に「これまでゴルフを辞めようと思ったことはないか?」と訊ねると、こんな答えが返ってきた。
「僕はなかったですね。ゴルフが嫌になったり、辞めたいと思ったり、試合中にゴルフが楽しくなくなっちゃったりしたことはたぶんないですね。自分が地道に努力できたのは、もちろんお父さんの影響もあると思うんですけど、やはり、その先にはタイガー・ウッズの存在がありました。“絶対にあの選手といつか戦うんだ”“一緒にプレーするんだ”という気持ちが頭の隅っこに必ずあった。だからこそどんな練習も頑張れたと思います」

 そのタイガーも昨年からのスキャンダルでメディアからバッシングを受けた。公式ホームページで無期限のツアー参戦自粛を表明した際には、引退説も囁かれたほどだ。それでも約5カ月のブランクを経て、彼は再びティーグラウンドに戻ってきた。自分自身からゴルフをとったら、何も残らないことをタイガーが改めて感じたのだろう。対談内では、技術的なことをあれこれと質問をぶつける石川に対し、タイガーがまるで弟を見るかのような優しい視線を送っていたのが印象に残った。

 アドバイスをもらった石川も「タイガーのスイングが頭の中に残っているうちに、忘れないように打ちに行きたい気持ち」とはやる気持ちを抑えきれない様子だった。2人のゴルフ談議は時間の制約がなければ、いつまでも続くように思われた。

 真のスターの必要条件のひとつとして、私は競技に対する深い「愛情」をあげたい。ボクシングの世界に、かつてエディ・タウンゼントという名トレーナーがいた。ガッツ石松、井岡弘樹ら日本で6人もの世界チャンピオンを育てた。生前、彼はこんな言葉を口にした。
「最後に生き残るのはボクシングをlikeではなくloveしている選手だ」
 タイガーも石川もゴルフに対する気持ちはlikeというレベルではない。間違いなくloveだ。まさに「好きこそものの上手なれ」である。

 ゴルフはチェス

 スターはプレーのみならず、発言でも人々を魅了するものだ。今回の対談でもタイガーは含蓄のある言葉を残してくれた。
「ゴルフはチェス」
 石川に伝えておきたいメッセージを訊ねた時のことだ。

「ゴルフ場でチェスのようにどの駒をどう動かしていくのかというゲームがゴルフじゃないかと思います。そこで駒の代わりになるのがショットです。ショットの角度はどのくらいにするのか、どういう精度で打つのか考えながら、自分を最高のスコアに導くために1つずつ積み上げていく。ゴルフにはパワーも大切ですが、ゴルフ場のコースは“こういうふうにプレーしなさい”とつくられているものです。だから、まず、それをしっかり把握して、自分がどのようにプレーしたらいいかを考える。これが一番じゃないかと思います」

 ゴルフで最も大切なのはパワーでもテクニックでもない。チェスのように頭を使ってプレーすること――。ここにウッズが第一線で活躍してきた理由が垣間見えた気がした。私もさまざまなスポーツのアスリートを取材してきたが、一流の選手は共通して、その競技に対するIQが高い。一般的にスポーツの世界で重要なのは心技体といわれる。だが、プロのレベルになれば、心も技も体も高い次元にあるものだ。ならば最後に勝敗を分けるものが頭脳だろう。いかに状況を把握し、相手より先を読んで有効な一手(ショット)を指せるか……。そう考えてみると、確かにゴルフはチェスに似ている。

 日本ではトッププレーヤーになった石川も、まだ海外では目立った結果を残せていない。小学校の卒業文集に書いた「マスターズ優勝」の夢を叶えるためには、いくつものバンカーを越えなくてはならない。
「現段階では皆さんが思っているよりも、僕はやらなきゃいけないことがたくさんある。僕の中では、まだスコアや結果の優先順位は一番じゃないんです」

 ただ、彼の視界にははっきりと目指すべきグリーンは入っている。ピンフラッグが見えていれば、少々、ミスショットをしてもリカバリーがきく。試行錯誤の日々も、決してまわり道にはならないだろう。むしろ若いうちにあれこれ考え、経験することが“ゴルフ脳”を鍛えてくれるはずだ。

「石川選手と一緒にプレーできる機会があることはうれしいし、楽しい。競技者としても一ファンとしても石川選手がどのくらいうまくなるのか、強くなるのか非常に楽しみにしています。僕が19歳の時は、まだプロじゃなかったし、プロになる準備もできていなかった。石川選手は、この年でプロして活躍している。“頑張れば絶対に夢は叶うはずだ”という気持ちで頑張ってほしい」

 タイガーのエールを石川は真剣なまなざしで聞いていた。今回の番組は2人にとって、あくまでもプロローグに過ぎない。メジャーの舞台でしのぎを削る時、物語は新たな章に突入する。そして、それはそんなに先の話ではない。

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<放送概要>
◆出演者
タイガー・ウッズ、石川遼
番組ナビゲーター:青木功、小川光明
対談インタビュアー:二宮清純
実況:田中雄介/解説:牧野裕
◆放送日時
第2部:1/3(月)19:00〜他
◆放送チャンネル
スカパー!HD:Ch.190/スカパー!:Ch.180/スカパー!e2:Ch.800
◆視聴条件
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