球春到来――プロ野球は2月1日、全12球団が一斉にキャンプインを迎える。今年の注目はなんと言っても大学からやってきたルーキーたちだ。各球団のドラフト1位を見渡しただけでも、埼玉西武の大石達也(早稲田大)、北海道日本ハムの斎藤佑樹(同)、広島の福井優也(同)、巨人の沢村拓一(中央大)、中日の大野雄大(佛教大)、千葉ロッテの伊志嶺翔太、東北楽天の塩見貴洋(八戸大)と7人が大学出身者だ。まさに当たり年である。

 彼らの世代には既にプロで活躍している選手も多い。田中将大(東北楽天)、前田健太(広島)、坂本勇人(巨人)などはその代表例だろう。彼らが生まれた1988〜89年はちょうど昭和から平成への転換期にあたる。そんなタイミングで産声をあげた彼らが、平成のプロ野球をリードしていくことになる。

 斎藤、成功のカギは?

 日本ハムの斎藤は、名実ともにこの世代を引っ張ってきた主役だ。5年前、夏の甲子園での力投と、さわやかな立ち居振る舞いで“ハンカチフィーバー”を巻き起こした。早大に進学後も人気、実力ともに大学球界ナンバーワン。六大学で歴代14位タイとなる31勝(15敗)を上げた。「何か持ってると言われ続けてきましたけど何を持ってるのか確信しました。それは仲間です」。大学生活最後の秋季リーグで優勝した際の発言は新語・流行語大賞の特別賞を受賞した。

 日本ハムの新人合同自主トレが行われている鎌ヶ谷スタジアムには連日、多くの報道陣、ファンが詰めかけ、斎藤の一挙手一投足を追いかけている。おそらくキャンプ地の沖縄・名護でも同様の現象が起きるだろう。「まだ1球も投げていないのに騒ぎ過ぎでは?」との声もなくはないが、久々に登場したプロ野球界のスターであることに異論の余地はない。

 斎藤の真の凄さは大学4年間、大きな故障なくチームの中心で投げ続けたことにある。チームにとって1番ありがたいのは、ローテーションをシーズン通して守ってくれるピッチャーだ。甲子園や大学日本代表で大舞台を踏んできただけに、ピンチにも動じない。もちろん長いシーズンの間にはプロの洗礼を浴びることもあるだろう。それでも2ケタ勝利に手が届く可能性は高いとみている。

 彼が2ケタ勝てば、日本ハムは優勝が見えてくる。なぜなら、このチームにはダルビッシュ有というスーパーエースがいるからだ。彼が10前後の貯金をつくってくれるのだから、極端な話、他のピッチャーは五分の成績でいい。それは斎藤だって同じだ。こう考えると、斎藤はあまりプレッシャーのかからない、最高の球団に入ったのではないか。

「高校の時も大学の時も折に触れて見てきました。もうできあがっちゃっている印象ですね」
 こう斎藤を評するのは東北楽天名誉監督の野村克也である。辛口のノムさんにしては珍しく高評価だ。
「教えることがあるとすれば、あとはバッターの攻略法だけでしょう。僕からすれば、あんなおもしろいピッチャーはいないね。生かすも殺すもキャッチャー次第というタイプだから」
 野村は「自分がマスクを被れば、(斎藤に)2ケタ勝たせる自信がある」と語っていた。果たして日本ハムの捕手陣は斎藤の良さを十分に引き出すことができるのか。ここが彼の活躍を左右するポイントになりそうだ。

 大石はクローザー向き?

 ドラフト会議では斎藤を上回る6球団による競合の末、西武が交渉権を獲得したのが大石だ。売りはMAX155キロのストレート。昨夏の大学野球選手権では代表のクローザーとして4試合に登板し、打者14人と対戦してなんと10個の三振を奪った。特に準決勝の米国戦では、直球で3者連続の空振り三振に仕留めている。狙っていても打てないストレートの伸びは魅力的だ。

「変化球にはスライダーもある。微調整すればもっとよくなる投げ方をしている。先発としてつくり上げますよ」
 西武・渡辺久信監督はスターターとして育てる方針のようだ。ただ、個人的な見解を述べれば、彼はやはり抑えが適任ではないか。大石はストレート以外の持ち球は基本的にスライダーとフォークで決して豊富ではない。いくら豪速球を投げ込むとはいえ、プロの1軍のバッターたちは打順が一回りもすれば対応してくるはずだ。ストレートとフォークで日米の強打者を牛耳った佐々木主浩のように、短いイニングでこそ力を発揮するタイプに映る。チームの台所事情をみても、絶対的な守護神は不在。V奪回には中継ぎ以降の整備が不可欠なのだから、先発にこだわる必要はないだろう。

 福井の下半身に注目せよ!

 広島の福井は実際には斎藤らより1つ年上である。済美高では2年生エースとして甲子園で春・優勝、夏・準優勝に貢献した。高校3年時に巨人から高校生ドラフト4巡目指名を受けた。当時のドラフトは大学・社会人との2本立てになっており、4巡目とはいえ、実質的には8〜10巡目に等しかった。
「もう少し上位だったら、間違いなく巨人に入っていました」
 低い評価に納得がいかなかった福井は一浪して早大に進学したのである。

 済美高時代の恩師、上甲正典は「福井には2つ課題がある」と指摘する。上甲は宇和島東高で岩村明憲(東北楽天)や平井正史(中日)らを育てた名伯楽である。それだけに教え子を見る目は鋭い。
「まずひとつは疲れてくると体が開き、手が遅れ気味に出てきます。こうなるとナチュラルシュートがかかり、外を狙ったボールが真ん中に集まってくる。彼が連打を浴びるのは、大体、このパターンです。
 もうひとつは初球、スライダーで安易にストライクを取りにいくこと。スライダーは本人にとって一番自信のあるボールなんですが、コーナーにきっちり決めないとプロでは狙い打ちされますよ。このあたりを改善できるかどうか……」
 
 福井は岡山県西粟倉村の出身である。この村は偉大なアスリートをひとり輩出している。バンクーバーパラリンピックのクロスカントリーで2つの金メダルを獲得した新田佳浩だ。岡山県といえば温暖なイメージがあるが、県北の中国山地沿いは雪がよく積もる。新田と同じように福井も早くからスキーに取り組んだ。「小学校の頃は県大会で優勝して、中学校の頃は全中(全国中学校体育大会)に出たことがある」というくらいだから、なかなかの腕前である。

 クロカンで鍛えた内転筋をはじめとする下半身の筋肉はしなやかで実用的なはずだ。雪の上を走っていただけにバランス感覚も養われていることだろう。「僕の太ももには雪が詰まっていますからね(笑)」。キャンプで彼のピッチングを見る機会があれば、その発達した太ももに注目してほしい。

 沢村が2ケタ勝つ条件

 強靭な下半身といえば、巨人の沢村も負けてはいない。太もものサイズは68センチ。まるで競輪選手並みだ。大学時代に地道なトレーニングで体をいじめ抜き、体格だけなら江川卓や野茂英雄にも見劣りしない。入学時に141キロだったストレートは157キロを計時するまでになった。

 佐野日大高では3番手ピッチャーだった彼を育てたのが、中大の高橋善正監督である。高橋は東映、巨人で11年間プレーし、71年には史上12人目の完全試合を達成した実績を持つ。プロのレベルを知る指導者の目に沢村はどう映っているのか。
「今の彼のコントロールじゃ勝っても5勝くらいだろう。カーブもスライダーもそうだけど、少なくともストレートは今より2、3割は制球力をアップさせなくてはいけない」

 何とも手厳しい一言だ。沢村の球威のあるボールがコースに決まれば、いくらプロの強打者とはいえ、打ち返すのは容易ではないだろう。1年目から2ケタ勝利を狙える逸材と見ていただけに、この評価は意外だった。

 では、どうすれば2ケタ勝てるようになるのか。
「やはり狙ったところに8割近くは投げられないとダメだろうね。今は学生相手でも、まだ5割くらいしか狙ったところに投げられない。ただね、あの子は学習能力が高い。だからプロのキャンプに参加して“やっぱり、こうしなきゃダメなんだ”とわかったら対応できると思う。その意味で“伸びしろ”部分はたくさんある」
 私も実際、沢村本人に話を訊いたが、考え方がしっかりしており、観察力もある。高いレベルで揉まれる中でさらに進化するタイプだとみている。

 余裕漂うマー君、マエケン

 もちろん先にプロ入りした同世代の選手たちも黙ってはいない。昨季、沢村賞を受賞し、セ・リーグの投手3冠に輝いた広島の前田健太は「同級生の中では先を走れたかなと思う」と自信をのぞかせる。
「先にプロに入って、いい成績残せないと悔しい気持ちになる。でも去年、いい成績を残せたことが自信になった。今年、いいピッチャーがたくさん入ってきたので励みになりますね」

 プロ4年間で既に46勝をあげている田中将大も昨年の契約更改の会見で、「同級生たちが入団してくることは、対戦も増えるし、僕自身楽しみです。ファンの方々も楽しみにしてくれていると思う。その期待に応えられるよう、一緒に頑張っていければ良いと思います」と話していた。一足先にプロで結果を残しているだけに、2人の発言にはどこか余裕が感じられる。

 20年後、この世代を我々は何と呼ぶことになるのだろうか。ハンカチ世代かマー君世代か、マエケン世代か沢村世代か……。いずれにしても、彼らがつくるストーリーは大河ドラマのように長く見ごたえのあるものになるはずだ。今、そのプロローグに立ち会える幸せをかみしめたい。

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【主なキャンプ特番】

◇猛虎キャンプリポート2011(スカイ・A sports+) 2月1日9:00〜など
◇2011巨人キャンプ中継(日テレG+) 2月1日12:30〜など
◇タイガース&ファイターズ キャンプTV(GAORA ) 2月1日22:00〜など
◇楽天キャンプわしづかみ2011(スカイ・A sports+) 2月1日23:00〜など

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