東北楽天の新監督に就任した星野仙一といえば、球界では「怖い人」で通っている。
 しかし朝から晩まで、ただ怒っているわけではない。1軍半や2軍の選手は別として、1軍選手、とりわけ主力やベテランに対しては、ヒザを交えてじっくりと話をする。

 その際、自らはあまり口を開かず、聞き役に徹することのほうが多いそうだ。
 今期限りでユニホームを脱いだ元阪神の矢野燿大は中日で3年、阪神で2年、星野の下でプレーした。
 97年オフには大豊泰昭とともに、久慈照嘉、関川浩二とのトレードで阪神に移籍した。もちろんトレードを画策したのは星野だ。
「くそ! 見返したるわ」
 その思いだけを支えにして阪神で腕を磨き、レギュラーにもなった。
 しかし移籍後、4年連続最下位。
 そこへ再建人としてやってきたのが星野である。矢野の気持ちは複雑だった。

「いったい、どうしたらええんやろう」
 わだかまりは、そう簡単に消えるものではない。
 それを見越したように星野の方から声を掛けてきた。
「オマエの方はタイガースのことはよう知ってるな。よろしくな」
 矢野は言う。
「その一言で、うまく気持ちを切り換えることができました。監督(星野)が僕のことを気遣ってくれているのがうれしかったですね」

 楽天には山武司、鉄平、小山真一郎と3人の元部下がいる。強気で鳴る星野だがパ・リーグで指揮を執るのは初めて。NPBでの現場復帰は8年振りだ。
 口にこそ出さないが不安もプレッシャーもあるはずだ。
 そこでカギを握るのが先の3人である。選手の人となりやチーム事情を聞き出し、それを采配に反映させるのではないか。
 場合によっては彼らを叱ることでチームに渇を入れたりもするだろう。星野流アメとムチとともに注目だ。

<この原稿は2011年1月3日、10日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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