太ももののサイズは65センチ。競輪選手なみである。このたくましい太ももが157キロの原動力となっている。
巨人のドラフト1位ルーキー沢村拓一(中大)は身長183センチ、体重90キロの偉丈夫だ。
近年、これだけ体のできたルーキーは見たことがない。4年間の地道なトレーニングの成果と言っていいだろう。
大学入学時、141キロだったストレートは157キロを計時するまでになり、コントロールも安定した。
意中の球団からドラフト1位指名を受け、記者会見で涙をこぼしたのは願いがかなったからではない。
「4年間、自分に厳しくやってきた。正直、しんどかったなという思いが甦ってきたんです」
と本人。やるべきことを手を抜かずにしっかりやってきたからこそ“晴れの目”を迎えることができた――そんな思いだったのだろう。
「4年間、みっちり体力トレーニングをやってきたことは正解だったと思います。しかし、ただ鍛え上げたわけではない。
確かに(球場の)ポール間を20本走ったり、ウエイト・トレーニングで追い込めば、体もそれなりに強くなるでしょう。精神的な充実感もあるかもしれない。
しかし、それだけでは人と差を付けることはできない。人と差を付けようと思えば、たとえばダッシュを10本やるとして、1本1本を全力で走る。そして“これは何のためにやっているのか”ということを絶えず確認しておかなければならない。
僕に言わせれば“体力トレーニング、イコール練習”と勘違いしている選手が大半ですね」
そして、こう付け加えた。
「練習はグラウンドだけでやるものではありません。私生活も大切です。寮での歩き方もそう。ピッチングとは、まずかかとがついて、最後につま先からつく。スリッパを引きずって歩いているような選手は、私生活から変えなければなりませんね」
体も大人なら、考え方も大人である。プロで10年、メシを食ってきた選手と話しているかのような錯覚を覚えた。
観察力も尋常ではない。
「今年のクライマックスシリーズや日本シリーズを観ていて(ピッチャーが)ベースカバーに行かず、(内野手が)暴投したボールがベンチに入り、テイクワンベースというケースがありました。
あと、先頭打者に四球を出すと、大体、点にからんでいましたね。(打者を)攻めての四球ならまだしも、明らかな四球だったら“ブルペンで何やってたの?”って話になってしまいますね」
大変な読書家でもある。ベストセラーとなった野村克也の『野村ノート』(小学館)は大学1年時に読み、キャッチャーの思考法について考えた。巨人に指名されてからは監督である原辰徳の著書『原点――勝ち続ける組織作り』(中央公論新社)を読み込んだ。
プロデビュー、スタンバイOK。顔にはそう書いてあった。
<この原稿は2011年1月16日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>
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