二宮: 水着と同様に力を入れているのが、医療機器の分野です。そもそも、どういった考え方から開発をスタートしたのですか?
山本: 今までにあった医療機器というのは、いわゆる電気仕掛けのものが中心なんです。なにか堅いものというイメージですね。そこで我々はバイオラバーという素材を使って、医療分野に貢献していこうとなったんです。少し難しい話になってしまうのですが、人間の体内では“静脈還流”という働きがあります。それを促進させるのが『メディカルバイオラバー』の効果・効能なんです。
(写真:山本化学工業が開発したメディカルバイオラバー)

二宮: 静脈還流という言葉は初めて聞きます。
山本: 静脈還流とは、心臓からポンプで送られた血液が、全身の隅々まで動脈を通って流れていって静脈を通して心臓へ戻る働きのことです。その血液が戻っている時、静脈には弁がついていて、どんどんと重力に逆らって心臓へ上がってこようとします。しかし50歳を超える頃になると、血液の粘度が高くなってきますし、心筋も弱ってくる。そうすると、血液が戻りにくくなるんです。並行して加齢によってリンパの流れも悪い状態になっていますから、足がむくむなどの症状が出てくるんです。むくみだけならまだいいのですが、静脈還流がスムーズにいかなければ血管内に血栓ができることもあります。これは全身麻酔の手術中も気をつけなければいけない問題とも言われています。麻酔をかけると筋肉が緩みますから、血圧が下がってしまう。そうすると静脈還流が弱まり、やはり血栓ができやすくなる。血栓防止のために、筋肉を締め付ける着圧ストッキングを履く人も多いかと思います。血流が滞りやすいのはふくらはぎから下。足は心臓から遠いですから、流れが悪くなりやすいんですね。そして、人間の静脈の中で、最も細い構造になっているのがかかとの上なんです。ここが一番の難所であると同時に、最も血栓の出来やすい場所になります。一度血栓ができてしまうと、脳梗塞や肺血栓塞栓症を引き起こす。これは死に至ることもある病気ですから、それを防ぐためにメディカルバイオラバーが活躍するわけです。

二宮: 着圧ストッキングは私たちにも馴染みがあります。それらとメディカルバイオラバーの一番の違いは?
山本: それはもう、使いやすさでしょう。つけやすさと言ったらいいのかな。従来の着圧ストッキングは2次元で薄いものですから、かなり足を締めなければ圧力がかかりませんでした。一方で、メディカルバイオラバーはゴムで締めることになりますから、3次元で締めるようなイメージです。この発想ならば、装着しても着圧がかかっているような感覚はほとんどない。でも実際には部分的に圧がしっかりとかかっているんです。これは使用される方、特にお年寄りには非常に楽なことなんです。

二宮: なるほど。各部位で装着できるのも優れた点ですね。
山本: 大抵の着圧ストッキングは2つの部位に使うものです。腰から太もも用、そしてふくらはぎから足首用になっています。我々が提案しているものは、腰、太もも、ふくらはぎ、足首とそれぞれの部位で使用できます。これは高齢者の方が、パッとつけてもらえるようにと考えたんです。この4分割の方式を厚生労働省が我々の提案の趣旨を踏まえた上で認めてくれたわけです。ここは他のメーカーではなかった発想ではないでしょうか。
 さらに、この着圧の技術を医療機器の範囲内でダイエット用のパンツにしていこうとも考えています。他には、フィッシングタイツに転用したり……。可能性は無限に広がります。

 赤外線の誤ったイメージを覆したい

二宮: なるほど。釣り人は一日中川に入っていますから、当然体が冷える。そうすると、足もむくんでしまいます。バイオラバーのフィッシングタイツなら、赤外線の効果で体を温めますし、そこに着圧効果まで加われば、一石何鳥にもなりますね。
山本: そうなんです。ただ、一般のイメージではバイオラバーが赤外線を発生させるということを伝えるのは難しいんですね。二宮さんや私達の年代で赤外線というと……。

二宮: まず、「こたつ」が思い浮かびます(笑)。
山本: そうですよね。年齢がある程度上の方は、赤外線と聞くと、まずこたつの真っ赤な光を想像してしまうんです。以前、あるメーカーさんを訪れた時にも「あなたのところでは、ゴムで赤外線を出すと言いますが、電気がなくて大丈夫なんですか?」と聞かれました。メーカーの人からもそういう言葉が出てくることがあるんですよ。

二宮: たしかに、真っ赤な光を放つ赤外線こたつが、温かいイメージと重なります。
山本: 面白い例があります。本当は、温熱治療器と赤外線治療器というものは全くの別物なんですが、実際はかなりごっちゃになってしまっています。温熱治療器は温かくなる。だから温熱効果が期待できる。赤外線も温かくなる。だったら温熱効果じゃないかって(笑)。本当は違うんだけど、一緒だと思っている人がいっぱいいるんです。それは赤外線が赤い色と決め込んでいるからであって、赤い色をしているのは赤外線治療器、赤い色をしていないのは温熱治療器と、そういう認識なんですよね。このような誤解を解くことから始めなければいけません。
 私達のバイオラバーが医療機器として認められたのは、赤外線の分光放射率が60%以上という基準をクリアしているから。この数値が赤外線治療器の基準なんですよ。赤外線はあくまで光のエネルギー。赤外線コタツはもちろん電熱で温めていますから、熱のエネルギーですよね。この違いから始めなければいけない。

二宮: 赤外線は太陽光の中にも含まれているものですよね?
山本: 入っています。赤外線自体には熱はないんです。赤外線を当てることによって、体が赤外線を吸収する。私達の体内には水の分子やタンパク質の分子があって、我々が生きている間は、必ず小さな振動をしています。そこへ赤外線が入っていくことで、分子の振動が激しくなるんです。この振動回数が増えるにつれて、分子同士がぶつかったエネルギーで体内が温かくなって、温熱効果を生むというのが赤外線の光エネルギーと熱エネルギーの関係なんです。2011年、私たちはこの光エネルギーと熱エネルギーのつながりを、できるだけはっきりと皆さんに知っていただきたいなと考えています。

二宮: これまでのお話を聞いていると、スポーツの領域にとどまらない大きなテーマになっています。
山本: 他のメーカーさんが手がけているのはスポーツ用のサポーターくらいでしょう。でも、私たちはそこだけに留まりたくはないんです。医療機器といえば、どちらか言うと治療の意味で考える方が多いと思います。しかし、私たちが考えているのは予防や安全性の確保なんです。年配の方がスポーツを楽しむ機会が増えている今、若い頃と同じように筋肉がグッと伸びて、思った以上に運動の質が上がる体験をさせてあげたい。そのための第一歩がバイオラバーであり、ゼロポジション水着なんです。ここを我々がサポート出来れば非常に多くの方に喜んでもらえるでしょう。医療機器のメーカーさんではスポーツのフィールドはわからないですから、ここでお話したような製品を作ろうという発想もない。だったら、私たちが作ってみようということです。

二宮: 治療から健康促進、健康維持という方向へシフトするのは、今後の日本の状況を考えても必要不可欠なことでしょうね。
山本: 予防医学が大切だという話は結構耳にするのですが、それを実際に形にしている例はなかなかないんです。そこを私たちが実現できればと思っています。

 山本化学工業株式会社


現在、山本化学工業が海洋生物からヒントを得て開発した「親水性」のテクノロジーが、東京・上野の国立科学博物館で「エコで未来! 自然に学ぶネイチャーテクノロジーとライフスタイル展」(2011年2月6日まで開催)に高速水着として展示されています。