様々な分野に素材を提供してきた山本化学工業が新しく開発したのは、これまでにない製品だ。その名も『ハイブリッドアクティブスーツ』 。2年の歳月をかけて開発した力作について、山本富造社長が解説してくれた。話はゴム素材の持つ性能の素晴らしさからハイブリッドスーツの可能性、さらにはゴム素材を使った新製品の提案まで多岐におよんだ。

二宮: お話をうかがうたびに発見がありますが、今回も画期的なものをご紹介いただけると聞いています。社長が着ているのが、噂のスーツですか?
山本: はい、これがラバー素材で作ったハイブリッドスーツです。私たちが作った素材を鳥取県にあるグッドヒルさんの工場で縫製していただいて、オーダーメイドスーツのエフワン さんで販売しているんです。これ、一度着て頂いたらわかりますが、保温性が抜群にいいんです。特に今年の冬は寒いですから、もってこいですね。

二宮: 素材はもともと水着に使用してきたラバーなんですね。これならば、防寒対策も万全と?
山本: はい、そうです。さらにラバー素材は伸びるのでストレッチが効いて長く着ていても楽ですしね。さらにはこのスーツが力を発揮するのは雨に降られて濡れた時。このスーツなら関係ありません。

二宮: 水を弾くわけですか?
山本: はい。傘をさしていても、強い雨ならばジャケットの肩のあたりや下のパンツはビショビショになりますよね。でも、このスーツなら関係ないです。濡れたあとに拭けばいい。

二宮: 冬場なら雪国の方にもいいですね。
山本: そうですね。寒さと水に強いですから。

 ファッションとファンクションを備えた素材

二宮: エフワン での売れ行きはいかがですか?
山本: 今年の冬は寒いので、おかげ様で好調です。当初の予定より1.5倍くらい売れています。実はこの素材、海外でも評判がいいんですよ。ヨーロッパのルイ・ヴィトンやフェラガモというブランドから「素材を送ってくれ」という要望が届いているんです。ファッション業界は、来年の秋冬にむけて新しい素材を探しています。最近のファッションの傾向として、「ファンクションがないと、ファッションじゃない」ということを言うデザイナーさんが多い。機能性をしっかりと持った新たな素材を探しているんですね。そうなると、我々の持っているラバーの加工技術や薄くて軽い素材というのは扱いやすいようです。機能があって、ファッション的にも今までと違うっていうのが見せられるから。

二宮: ファッションと実用性をしっかりと兼ね備えているということですね。
山本: そうですね。ラバー、つまりゴム素材のシルエットというのは、布では出せないそうなんですね。このフワッとした柔らかい感じです。曲線のあるシワというのは、普通の生地では出せない。以前は私たちも国内のデザイナーさんと組んでウェットスーツの素材で礼服を作ったこともあるんです。でも、その頃の素材はいかんせん厚かったもので、畳みづらかったんです。しかし、今は相当薄くなっていますから、畳みやすいしシワが残らないんですよ。一回クシャクシャにしてしまっても、あとはハンガーに掛けておけば、真っすぐ元に戻るんです。

二宮: シワにならないのなら、ビジネスマンが出張する時にもいいですよね。長い時間電車や飛行機に乗ればどうしてもシワが気になります。ただ、洗濯する時はどうすればいいんでしょう?
山本: 洗濯は、ネットに入れて家の洗濯機で回してもらえば、それで終わりです。

二宮: 自宅で、そのままでいいんですか?
山本: そうそう。洗濯機から出してハンガーで干してもらえば、アイロンもいらないんですよ。元の形にピタッと戻りますから。

二宮: それは便利だな。この素材のコートとかあったら、もっといいですね。
山本: 実はね、私たちも作ろうと思ったんです。ただ、この素材のよさに気付いたのが少し遅くて今年はちょっとね、間に合わなかったんですよ(笑)。来年は軽くて薄いコートを作ろうと思っています。コートは着ている時間より持っている時間の方が長いですからね。そういう意味でも、軽いコートは非常に使い勝手がいいだろうなと思っています。重さも普通のコートの半分くらいになるでしょうし、それこそ持っているカバンに入ってしまいますからね。

二宮: そうか、畳めるからカバンに入れても平気なんですね。
山本: はい。非常にコンパクトになって、必要な時だけ取り出すようなコートになるでしょうね。

 様々なものに進化できる

二宮: 撥水性があって洗濯もOKとなればスポーツウェアとしてもいいかもしれない。
山本: そうなんですよ。スーツを購入して気にいってくれた方が、2本パンツを買って帰るらしいんです。1本は普段のスーツ用に、もう一つはゴルフに行く時用に。

二宮: ああ、ゴルフにはピッタリですね。
山本: 一度着てしまうと、ゴルフではみんなこのパンツばかり履いていますよ。「他のズボンだと、もう寒くてダメだ」と言って。

二宮: 先ほど、ヨーロッパのファッション界からも声がかかっていると伺いましたが、今年のヨーロッパはとても寒いと聞いています。
山本: だから需要はありますよね。やはり薄くて暖かいものが好まれますから。

二宮: 元々は水着の素材だそうですが、加工するのに特許みたいなものはあるんですか?
山本: 特許はないんです。ただ、素材を作ることはよそでは出来ないんですね。我々と競合する企業は国内外にありますが、こういうものは作ってこない。素材の厚さは0.3ミリなんです。元々のゴムを0.3ミリにスライスする。それを実現できる技術はウチにしかないですね。

二宮: 素材に空いている小さな穴は通気性を考えているんでしょうか?
山本: はい、これは湿気だけを出すような構造になっています。表から風は入ってこないんです。水ももちろん通さない。だけど、湿気だけはしっかり外へ出すようになっています。だから、蒸れるということは絶対にないですね。

二宮: どのくらいのシーズンを想定して作っていますか?
山本: 半年くらいは着られると思うんですよね。11月から5月くらいまでですね。

二宮: 見た目は完全にレザーのジャケットですからね。上はジャケット、下はジーンズというスタイルでもいいかもしれない。
山本: そうなんです。様々な着こなし方ができるんです。着こなしとはまた違うかもしれませんが、先日、プロのオートバイのライダーの方と話す機会がありまして。その人はハイブリッドスーツを購入されたんです。スーツって端切れが着いているでしょう。それをバイクに乗った時に、ためしにグローブの中に入れたそうです。そうしたら、生地を入れたところだけ全く寒くなかったそうです。そうしたら、「この素材でライダー用のウェアを作れませんか?」という話になったんです。

二宮: 安全性と防寒性が確保できれば、ライダースーツもいいですよね。
山本: これは摩擦が起こっても溶けないから、火傷することもないんです。

二宮: 色々な仕事着にも転用できそうですね。たとえば宅配便、バイク便の人とかに。オフィスなどでは服装も気になるかもしれませんし、需要がありそうです。
山本: そうそう。さらに言えば、彼らは濡れる可能性ありますしね。荷物があれば傘を差すこともできないから。用途はこれから広がってくるでしょう。

二宮: 手袋にもいいでしょう。雨降っても弾きますからね。
山本: 革の手袋だと、雨に濡れたらダメになってしまうけど、これなら洗うこともできますし。

二宮: 他には何かありますかね? マフラーとか……。
山本: マフラーは、ちょっと難しいですね。でも、ネクタイは作ったんですよ。引っ張ったら伸びるネクタイ(笑)。そして胸元だけ、少し暖かい。ラーメン屋で汁につけても大丈夫、というコンセプトですかね。

二宮: スパゲティーも、カレーうどんも平気ですね。水洗いできるから(笑)。長靴やブーツには適しているんじゃないですか?
山本: そうですね。女性向けのロングブーツは、いけるかもしれませんね。

 山本化学工業株式会社