“アメリカの情熱”NFLは、今週末からいよいよプレーオフに突入。ニューヨークからはジェッツが今年も勝ち上がり、実に42年ぶりとなる悲願のスーパーボウル進出を目指すことになる。
 1月8日に行なわれる緒戦の相手は、現役有数のQBペイトン・マニング率いるインディアナポリス・コルツ。1年前のAFCタイトル戦で苦杯を喫した因縁のライバルである。この決戦を前に、いつでも強気なレックス・ライアンHCは「私たちは今年こそ最後まで勝ち進めると思っている。どこが相手だろうと、ウチのほうが優れたチームだ」とコメント。相変わらず大胆な「優勝宣言」で、地元のファン、メディアを喜ばせている。
(写真:NFLプレーオフの時期には全米の視線がフィールドに集中する)
 ただ、そんな指揮官の楽観論とは裏腹に、業界内の予想はジェッツに対して決して好意的ではない。
 1年前にスーパーボウルにあと1歩まで迫ったチームが、オフに大型補強を施し、開幕前の前評判は高かった。実際に最初の11戦では9勝2敗と好調。その時点では、「スーパーボウルにたどりつけなければ今季は失敗」という言葉が地元でも飛び交っていた。

 ところが大きな注目を浴びて迎えた12月6日のニューイングランド・ペイトリオッツ戦で、6タッチダウンを許してなんと3−45で惨敗。その後の4戦でも2勝2敗。振り返ってみれば前半戦は対戦カードに恵まれたゆえの好成績だった感もあり、ジェッツは「化けの皮が剥がれた」と終盤戦では陰口を叩かれた。
(写真:開幕前は本命視されたジェッツだが終盤に足並みが乱れてしまった)

 最終的には今季成績は11勝5敗。AFCプレーオフチームの中では最下位の第6シードに終わり、おかげでプレーオフでの日程は厳しくなった。初戦でマニング(コルツ)、第2ラウンドでトム・ブレイディ(ペイトリオッツ)、そしてAFCタイトル戦ではおそらくはベン・ロスリスバーガー(ピッツバーグ・スティーラーズ)との対戦が濃厚。スーパーボウルに進みたいなら、3人の現役を代表するQBを擁するチームをすべて敵地で打ち破らねばならないのである。

 この厳しい状況下でライアンHCは、それでも「ウチはプレーオフを想定した構成されたチーム」と言い続けている。実際にラデイニアン・トムリンソン、ショーン・グリーンを軸にしたランゲームと、ライアン自慢の強固なディフェンスがともに機能すれば希望は見える。

 だが今季後半では特にパス守備が綻びをみせた。その事実こそが、強力QBと対戦せねばならない今プレーオフでの低評価に繋がっている。現実的にプレーオフでもある程度の失点は覚悟せざるを得ない。そうなると最大の鍵を握るのはジェッツのQBマーク・サンチェスということになるのかもしれない。
(写真:NY地元紙も最近はジェッツの話題で持ち切りだ)

 昨年のプレーオフ時にはまだ存在感がなかったサンチェスだが、2年目を迎えて徐々に逞しさを誇示し始めている。今シーズン2〜4週目にはタッチダウンパスが8つに対し、インターセプトは0、QBレイティング117.8という絶好調のスパンを経験。ポテンシャルの高さを改めて証明している。

「フットボールというゲームは僕個人よりも大きい。(ジェッツが)自分次第だなどという風には考えていないよ」
 高まる期待をそうはぐらかしたサンチェス。しかし、もし彼がジェッツが信じる通りのフランチャイズQBの器だとすれば、2年連続となる大舞台で大器の片鱗を見せねばならない。今冬、期せずして点の取り合いに挑まねばならなくなった際、サンチェスがどんな姿を示すかにチームの浮沈も委ねられてくると言ってよい。

 2011年のスーパーボウルは、2月6日にダラスのカウボーイズスタジアムで行なわれる。ジェッツがそこに辿り着く可能性は、現実的にかなり低いと言わざるを得ない。わずか1カ月前に42点差(ペイトリオッツ戦)で大敗を喫したチームが、簡単に勝ち進めるほどNFLは甘くはない。
(写真:最終決戦スーパーボウルは今年はダラスのカウボーイズスタジアムで開催)

 だが実はジェッツは1年前にも、まったく無印の状態でプレーオフに進みながら、意外にもスーパーボウルにあと1勝の位置まで勝ち上がっている。良くも悪くも予想を裏切るのが得意なチームだけに、ほのかな期待を寄せたくもなる。2年目を迎えたライアンとサンチェスのデュオが、今年も土壇場で驚かせてくれるのではないか……?

 紆余曲折の末にジェッツが奇跡を起こしたら、その歩みはフランチャイズ史上最高級の“ミラクル・ラン”として語り継がれていくはず。そんなシナリオは夢物語と感じながら、それでもニューヨーカーはテレビの前に釘付けになる。スリリングな予感とともに、アメリカのスポーツファンが最も熱くなる季節が間もなく始まろうとしている。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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