マニー・パッキャオ、フロイド・メイウェザーという現役2大ボクサーの直接対決は、未だに幅広い層から待望され続けている。
 すでに最善の時期は逸した感があるが、それでも実現すればペイ・パー・ビューの最多売り上げ記録更新は有力。恐らくはカウボーイズスタジアムに10万人以上の観客を集め、史上最大の興行として歴史に名を刻むことになるだろう。
(写真:無敵の快進撃を続けるパッキャオだが、今後は対戦者選びが難しくなっていきそうだ。 Photo By Kotaro Ohashi)
 ただ、この期に及んでは、もうその実現性に疑問を挟む声のほうが多いのも事実である。昨年9月に暴行、窃盗などで逮捕されたメイウェザーは、今月よりそれらの事件の公判に臨む予定。リングの代わりに刑務所に放り込まれても驚くべきではなく、次のファイトの交渉になど手が及ぶ状況ではないのが現実だ。

 事情をよく知るパッキャオ陣営は、メイウェザー戦をあっさりと諦め、次戦の相手にはシェーン・モズリーを選択。パッキャオ対モズリー戦は5月7日にラスベガスで開催される予定だ(注:38歳のモズリーは直近2戦で1敗1分と衰えが顕著なだけに、この一戦も内容は期待できないという声が圧倒的だ)。

 この後、やや手詰まりの2強がどんな路線を進むかは分からない。パッキャオが予定通りモズリーを下し、一方でメイウェザーが裁判を突破するか延期できたとき、直接対決の機運再燃もありそうだが……。しかし、2011年中にそうなる可能性よりも、むしろ完全消滅が決定的となる可能性のほうが高そうに思えることが、何よりも残念なところである。

・ヘビー級戦線加熱か

 退屈な状態が長く続いたヘビー級戦線が、ようやく盛り上がりの兆しを見せている。舌戦を繰り返すばかりでリング上での対戦がまとまらなかったクリチコ兄弟とデビッド・ヘイの統一戦が、少しずつ具体化の方向に向かっているのだ。今春に予定されたウラジミール・クリチコとヘイの対決こそ諸事情により流れたものの、両陣営がかなり接近したという事実が希望を感じさせる。
(写真:大口ばかりが目立つヘイがクリチコ兄弟と対峙する日は訪れるのか)

 WBO&IBF王者ウラジミールとWBA王者ヘイの激突は、レノックス・ルイス引退以降では紛れもなく世界ヘビー級最高のカード。近年は最重量級に冷淡なアメリカのファンも、この統一戦になら注目するはずだ。
 ウラジミールは4月30日にデレク・チソラと、ヘイは5月までにルスラン・チャガエフとそれぞれ防衛戦を予定している。

 この後、ウラジミールはポーランドの英雄トマス・アダメクとの防衛戦に臨むことが決まりかけているとも伝えられる。だが、ここは何とか世界中が待ち望む統一戦のほうを優先させて欲しいところだ。
 そして、もしヘイとの決戦もウラジミールが勝ち抜いたとしたら……。「兄弟で主要4団体制覇」というクリチコ・ブラザーズの途方もない夢物語は、そこで完遂することになるのである(注:兄のビタリィはWBC王座を保持)。

・スーパーシックスが決着へ

 様々なトラブルに見舞われてきたスーパーミドル級トーナメント、「スーパーシックス」もついに大詰めを迎えている。
 オリジナルメンバー6人の中から、すでにジャーメイン・テイラー、アンドレ・ディレル、ミケル・ケスラーが途中離脱。ボクシングにおけるトーナメント戦の難しさを改めて印象づけることになったが、それでも準決勝のアンドレ・ウォード対アーサー・エイブラハム、カール・フロッチ対グレン・ジョンソンは数カ月以内に開催される予定になっている。

 そしてこの2戦を勝ち抜いたボクサー同士が、夏にも決勝戦を行う。ここで本命視されているのは、予選リーグで印象的な強さをみせたウォード。万能ボクシングを開花させたウォードが、残り2試合も明白な形で制して頂点に立つのが最も有力なシナリオと言ってよい。
(写真:アメリカ勢の中で唯一辞退しなかったウォード(右)が「スーパーシックス」の優勝候補筆頭)

 しかし「スーパーシックス」が進む傍らで、このイベントに参加しなかったルシアン・ビュテ(IBF王者/27戦全勝(22KO))が同階級最強の評価を集めつつあることも忘れるべきでない。結局、「スーパーシックス」の決勝は事実上の準決勝に過ぎず、優勝者はその後にビュテと最終決戦を行なう路線が敷かれ始めている。いずれにしても、2011年中に、群雄割拠のスーパーミドル級の真の覇者が確立される可能性はかなり高そうだ。

・新スター候補が揃ったSライト級に注目

 現役を代表するスターたちの多く(パッキャオ、メイウェザー、セルヒオ・マルチネス、ファン・マヌエル・マルケス)は30代に差し掛かっているだけに、そろそろ新世代の台頭が待たれるところ。そういった意味で期待がかかるのが、イキの良いスーパーライト級の王者たちのさらなる成長だ。

 まず1月29日に、WBC王者デボン・アレキサンダー(21戦全勝(13KO))とIBF王者ティム・ブラッドリー(27戦26勝(11KO)1無効試合)という無敗チャンピオン同士が統一戦を行なう。今年度最初のビッグファイトにして、2011年前半のハイライトとなり得る魅力的なマッチアップである。

 そしてこの勝者が、夏場以降に予定されるWBA王者アミア・カーン(24戦23勝(17KO)1敗)との3団体統一戦に駒を進めるというのが現在のプランだ。去年1年間でアメリカでも名前を売ったイギリスの俊才カーンは、スピード、スキル、甘いマスクを備えたスター候補。その打たれモロさもあいまって、WBC&IBF王者との一戦はスリリングなファイトとなるだろう。
(写真:アミア・カーンは米英両国が期待を寄せるスーパースター候補だ)

 そしてこの3つどもえから抜け出した統一王者こそが、スーパーライト級の絶対王者として君臨することになる。2011年が終わる頃、その選手はパッキャオとメイウェザーに次ぐ業界の顔役として讃えられることになるのかもしれない。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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