防スポ×デフ=笑顔と学び ~TOKYO FORWARD 2025~
『TOKYO FORWARD 2025子供スポーツ体験教室 第1回「防災×デフリンピック」』が10月6日、東京都立中央ろう学校の体育館で行われた。同イベントでは防災とスポーツを組み合わせた特別プログラム『防スポ』を22人の小学生(3~5年)とデフバレーボール日本代表の中田美緒が体験した。
『TOKYO FOWARD』は来年世界陸上とデフリンピックを開催する東京都による両大会の気運を醸成するためのイベントだ。全4回の第1回目は「防災×デフリンピック」がテーマである。22人の小学生のうち半数が聴覚に障がいのある子どもが参加した。
今回は聴覚に障がいのある人たち向けのため声を使わずコミュニケーションを取るという独自ルールで行われた。それ以外は基本的な『防スポ』と同じ。この日は7種目ある内の「キャタピラエスケープ」「レスキュータイムアタック」「キャットサイクルレース」「ゴー!ゴー!キャリー」「防災知識トレーニング」の5種目を実施した。
「キャタピラエスケープ」は火災時に煙を避けるため姿勢を低くし、口にタオルを当てて進むタイムレースだ。「レスキュータイムアタック」は毛布を担架代わりに負傷者を運ぶ作業を模した障害物競走。「キャットサイクルレース」は一輪車に荷物を載せて運ぶ障害物競争である。「ゴー!ゴー!キャリー」は様々なかたちのボックスを、効率よく収納していく競技。「防災知識トレーニング」はその名の通り、防災知識をクイズ形式で解いていくものだ。
はじめは硬い表情を見せていた子どもたちも遊びの中で防災を学ぶことで自然と笑顔に溢れていた。手話通訳者や大人たちも笑顔になっていたのが印象的だった。『防スポ』の生みの親であるシンクの篠田大輔代表取締役社長は、「皆さんが楽しそうに競技をする姿は、いつものイベントと変わりありません」と胸を張る。
「これまで障がいのある方が参加したことはありましたが、今回のように参加対象として来ていただいたのは初めてです。障がいの有無に関わらず、災害時は生きていかないといけない。スポーツで心理的なハードルを下げ、一緒に楽しみながらじゃないと共有もできない。スポーツを通して楽しみながら、障がいの有無に関わらずコミュニケーションの場をつくることができたと思います」
参加した子どもにも話を聞いた。サッカーのユニフォームを着て参加した小学5年生の男の子が「防災のこととスポーツを合わせて楽しく学ぶことができました。手を使ってコミュニケーションを取ったので、言葉(日本語)が通じない人にも話せると思いました」と話し、耳に障がいのある小学4年の女の子は手話で「今まで声を使わず聞こえる人とコミュニケーションを取ったことがなかったんですが、楽しかったです」と感想を述べた。
ゲストアスリートとして参加した中田は「デフリンピックを知ってもらうと共に防災について学ぶことができるすごくいい機会だと思います。短い時間でしたが、このイベントを通して初めて知ったこと、子どもたちの発想が良かった。それを今後に生かし、何か困った人がいた場合には助けることができる。いい機会になったと思います」と感想を述べた。
「目に障がいのある人や車いすの人は見た目で分かる障がい。ただ耳が聞こえないのは、目で見てわからない気付きにくい障がいと言われています。耳が聞こえない人から“こうして欲しい”などの要望を伝えること、自ら発信することが大切。一方で聞こえる人たちにも手話がわからなくても、別の方法でコミュニケーションを取ることができるという理解を得た上で、コミュニケーションを取る機会を増やして欲しいと思います」
彼女に防災などの非常時に困ることについて聞くと「音声による放送と、地域の人との会話がどんな内容のことをしゃべっているかをわからないこと。一番いいのは紙に書いて見せることや、文字で書いたあるものを目で見てわかる情報を増やしていただけると安心して避難することができると思います」と答えた。中田は手話を駆使できるが、全てのろう者が手話を使えるかというとそうではない。デフバレーのチームでも、コミュニケーションは必須だ。
「それぞれの考え方を互いに理解することが一番大切。その作業がなければチームで勝つことはできないと思っています」
来年は東京でデフリンピックが開催される。
「生きている中で自国開催のデフリンピックはなかなか体験できないこと。デフバレーを含むデフスポーツの全てを通して、様々な世界、音のない世界をたくさんの人に知ってもらえる機会になったらいい。バレーボールは声を含め、音を使う。デフバレーの場合はアイコンタクトが大切。そのあたりの違いについても注目していただけるとうれしいです」
今回のイベントを通じ、参加者の中にもデフリンピック、デフバレーに興味を持った子ども、保護者もいた。1年後に向けて、まだまだやるべきこと、できることはたくさんあるはずだ。
(文・写真/杉浦泰介)