渋谷に咲いたブレイキンの花 ~コーセーブレイキンフェス~

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 10月最後の週末、渋谷の商業施設「ShibuyaSakuraStage」内に人だかりできていた。仮装した若者が集ったわけではない。話題の新商品が発売されたわけでもない。人々は「KOSÉBREAKING FES」と描かれたフロアを囲っていた。中心にはDJが鳴らすビートに合わせ、ヘッドスピンやウインドミルを披露するブレイクダンサーたちがいた。

 そこは日本発のプロダンスリーグ『D.LEAGUE』のKOSÉ 8ROCKS(コーセー エイトロックス)を持つ化粧品会社コーセーが主催する「KOSÉBREAKINGFES(コーセーブレイキンフェス)」の会場だった。コーセーは8ROCKSの他、公益社団法人日本ダンススポーツ連盟(JDSF)ブレイクダンス本部、Shigekixへの協賛を行うなど、ブレイキンシーンをサポートしている。今回が第1回大会となる。中学生以下が対象の1on1と高校生以上がエントリーできる2on2のバトルがメイン。1on1の優勝者にはベトナムで開催される東南アジア最大のダンスイベント「RadikalForzeJam」(ラディカルフォースジャム)への出場権と渡航費が与えられる。2on2の優勝賞金は100万円。準優勝でも50万円を獲得できる。

 出場選手も豪華だ。2on2の招待選手としてパリオリンピックブレイキン男子4位のShigekixが8ROCKSのメンバーとしてD.LEAGUE2季連続MVDに輝いたISSEIと組んで出場。パリオリンピック金メダリストのPhil Wizard(カナダ)、同銅メダリストVictor(アメリカ)、同ベスト8のMenno(オランダ)、さらには女子8強のAYUMIも参戦し、オリンピアンが勢揃いとなった。このほかにも8ROCKS、Valuence INFINITIES(バリュエンス インフィニティーズ)のメンバーも参加していた。MCが「ここに世界大会が来ている」と煽っていたが、それだけの面子が揃っていたと言っていい。

 

 大会の予選は11時から始まった。8ROCKSのメンバーを擁するチームも敗れるなどハイレベルさだった。15時からは本選(ベスト16)がスタート。3階で1on1、4階では2on2のトーナメント1回戦が行われた。ベスト8からは4階のみ。3階は入り切らなかった観客らのパブリックビューイング会場となった。この日、観客を最も沸かせたのは、第一線で活躍するトップダンサーたちだ。ShigekixとISSEIが持ち味を遺憾なく発揮。8ROCKSのYU-KIとTAICHIのペアはアクロバティックなコンビネーションを次々に見せた。海外勢のPhil Wizard、Victor、Menno、Stripes(アメリカ)も高次元のスキルを披露。白熱のバトルに会場は興奮の坩堝と化していた。

 また決勝前のエキシビションマッチは、Ⅻ After Ours(トゥエルブアフターアワーズ)と8ROCKSとのチームバトル。ShigekixはⅫ After Oursのメンバーとして出場した。ブレイキンを代表するトップクルーの競演。決して広いとはいえないフロアを最大限に使ってハイスキルを披露した。跳び、跳ね、止め、決め――。ブレイキンの魅力を凝縮したようなバトルで観衆をヒートアップさせる。

 

 1on1はファイナルでHAJIMEを下したRenren、2on2ではPhilWizard&Victorのパリオリンピックメダリストコンビを破ったMenno&Stripesが栄冠を手にした。Renrenは「予選からレベルが高くて、ライバルや仲間たちと当たってきた中で優勝できたことがメチャクチャうれしい。皆さんが応援してくれたことがうれしかったです。ありがとうございます」と喜んだ。ラディカルフォースジャムに向けては「今日の自分よりも技を磨いて、レベルアップした自分をベトナムで見せたいと思います」と抱負を述べた。Mennoにこの日の勝因を聞くと「それはジャッジに聞いてくれ」と笑みを見せた。
「自分が思うに、このバトルでいろいろなスタイルを皆さんに観てもらって、リスペクトカルチャーがブレイキンにはある。それがジャッジに通じたのが要因じゃないかな、と」

 大会を終え、参加者は軒並み好意的なコメントを残した。バトルのジャッジを務めた8ROCKSのディレクターSHUVANの感想はこうだ。

「世界的に有名なB-BOY、B-GIRLが渋谷に来た。コーセーさんのお力あってのことですが、メダリストを生で観られる環境ができたことに驚きました。次世代の子どもたちも大人顔負けのパフォーマンスで、お客さんも度肝を抜かれていたと思います。今後のブレイキンの未来も明るいと感じました」

 2on2の予選に出場し、8ROCKSのメンバーとしてエキシビションマッチにも参加したREIMIも「こういった会場でブレイキンのバトルをやること自体がすごい。自分もエントリーして、バトルとエキシビションに出て、自分自身のダンスの勉強になりました。最大級過ぎるイベントでした」と。

 

 パリオリンピック金メダリストのPhilWizardは「日本のレベルがすごく高く、ここでバトルできたことうれしく思う。楽しい時間を過ごさせてもらった」と大会を楽しんだようだ。それはオリンピアンのAYUMIも同じ。「お客さんの声に力をもらった。今日バトルしていた人はみんな楽しかったんじゃないかなと感じました」。最前列の観客はそれこそダンサーに手が届きそうな距離で、ハイレベルなスキルを堪能した。Shigekixも「レベルが高い試合を、皆さんに間近で見ていただいたことを、いちブレイキンを愛する者としてすごくうれしい気持ちです」と喜んだ。

 

 大会チェアマンを務めたDORAGONは「この盛り上がりを見たら、絶対Vol.2をやってほしい。子どもたちが目をキラキラさせていた。この子たちが今後のブレイキンシーンを担ってくれる。まだまだこのシーンを盛り上げていきたい、第2回を楽しみにしていきたい」と熱量込めて語った。Shigekixも「今回開催していただいたコーセーさんが、ブレイキンやダンスのカルチャー、業界を盛り上げてくださって、ありがとうございますという思いです」と感謝を述べ、こう続けた。

「ここに集まってきてくださった皆さんの盛り上がり。それはきっと大会をつくった側も、参加した選手も幸せな気持ちになったはず。全員が次回というものを望んでいる状況だと思います」

 

 この日、渋谷で蒔かれたブレイキンの種が、花を咲かすことができるのか。さらに多くの集客を見込むならば、広い会場を用意するのも手だろう。例えば吹き抜けのある会場なら、今回同様に周りを囲んで観る人もいれば、上の階から眺めることもできる。飲食や物販の量も増やすことができれば収益も広がるだろう。1日限りの打ち上げ花火ではもったいない、そう思わせるイベントだった。

 

(文・写真/杉浦泰介)

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