全日本学生体重別で輝いた綺羅星たち ~柔道~

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 10月5、6日の2日間、東京・日本武道館で行われた全日本学生柔道体重別選手権大会は個人の大学日本一を決める大会だ。過去の優勝者からは、オリンピックメダリストが多く出ている。今夏のパリ五輪で金メダルを胸に飾った女子48kg級の角田夏実(東京学芸大出身)、女子57kg級の出口クリスタ(山梨学院大)も優勝経験者。今回は将来が楽しみな4人の選手たちを紹介する。

 

休みの日も練習

 大会前から最激戦区と目されていたのが、女子48kg級だ。全日本柔道連盟の強化指定選手のB指定が吉岡光(東海大4年)、近藤美月(東海大2年)、稲垣若菜(桐蔭横浜大4年)、原田瑞希(日大3年)と4人もエントリー。中でも吉岡はカデ、ジュニアで世界選手権を制し、2023年にはシニアの国際大会(グランドスラム・ウランバートル)でも優勝しており、実績は頭ひとつ抜けている。近藤は23年の講道館杯全日本柔道体重別選手権大会で初優勝し、今年4月の全日本選抜体重別選手権大会では準優勝。そして稲垣は前回の全日本学生体重別を制している。

 

 この3人と比べれば実績で劣る原田は、思い切りのいいアグレッシブな柔道が持ち味だ。大分・柳ヶ浦高校から2021年に日大に進学。昨年は全日本ジュニア選手権大会で2位、全日本体重別では3位と好成績を残したものの、日本一には届かなかった。

 

「我慢強さが足りなかった。そこを先生たちと試行錯誤しながらやってきた。投げられなくても最後まで我慢してチャンスをモノにする練習をやってきた」と原田。今年は練習の成果もあって東京学生体重別を初優勝し、全日本学生体重別に乗り込んだ。

 

 原田を指導するのは2010年世界選手権東京大会女子52kg級金メダリストの上原(旧姓・西田)優香監督だ。

「原田は技のキレがあり、投げる力を持っている。あとは柔道が大好きですごく努力家。勝つための準備を怠らず、努力をし続けられるところが魅力です。日々、一緒に練習していて、この子が4年間で日本一になれなかったら、自分の責任だと思っています」

 上原によると、原田は「(休みの)日曜日まで練習してしまうタイプ」という“練習の虫”だとか。

 

 同階級はパリで金メダルを獲得した角田のほか、23年に世界ジュニアを制し、シニアの国際大会(グランドスラム東京)で2年連続表彰台に上がった日大の1学年後輩の宮木果乃などライバルが揃っている。IJF(国際柔道連盟)の世界ランキング(10月7日現在)でも角田が日本人トップの3位、宮木は日本人3番手の26位。圏外にいる原田は、ここから這い上がっていく必要がある。

「ロスに向けて選考レースは始まっている。まだ上には上がいる。1人1人倒して、競争に加われるよう頑張りたい」。ショートカットの21歳は、キリッと前を見据えた。

 

考える柔道家

 女子57kg級の大森朱莉(帝京大4年)も全柔連の強化指定Bに入っているホープだ。2歳上の姉・生純(JR東日本)は帝京大学4年時の22年大会(女子52kg級)で優勝している。当時2年生だった大森は準優勝。姉妹同時優勝を逃した。

「どの選手も尊敬していますが、姉の努力を間近で見てきたので、特に尊敬の念が強い。ロサンゼルスオリンピックは一緒に優勝したい。そのために一歩でも近づけるように頑張っていきたいです」

 大森は粘り強さが持ち味で21年に帝京大進学後、頭角を現してきた。1年時に全日本ジュニアで優勝。翌年の世界ジュニアで2位。シニアの舞台では講道館杯、グランドスラム東京で3位に入った。3年時はワールドユニバーシティゲームズで銀メダルを獲得。今年はアジア選手権で銅メダルを手にした。

 

 帝京大・穴井さやか監督は、教え子をこう評する。

「技術面では言えば、技がキレ、投げ切る力がある。体力面も階級の中でも優れたスタミナを持っています。今後の競技人生に生きるのは、しっかり考えることができる点です。結果だけにとらわれず、緊張とうまく付き合いながら自分が何をすべきかをきちんと選択できる。また伝えたことに対する咀嚼が上手。アバウトな質問をしても具体的な言葉で返ってくるところは、他の子と違いますね」

 

 しかし、ここまでの大森は順風満帆というわけではなかった。昨年秋から結果がなかなか出ず、「日本と海外での切り替えが難しかった」と苦悩した。優勝からしばらく遠ざかり、表彰台にも上れないこともあった。穴井の目には、大森が「迷っている」ように映った。

 

 今年2月のグランドスラム・パリ大会後、穴井は大森に声を掛けた。

「“朱莉の強みは何?”ということを再確認しました。その軸がブレてしまっては、彼女の良さが失われてしまう。最後まで自分を信じて欲しいし、磨いて欲しいということを伝えました」

 

 一方の大森は「穴井監督の言葉がすごく響きました」と言い、こう振り返った。

「自分らしさを見つめ直し、さらに考えて柔道をとるようになりました。ただ相手を投げるのではなく、どうやって投げるのか、どういうふうに自分の得意なかたちに持っていくかを……」

 

 5月の東京学生体重別選手権では大会直前に腰を痛めるアクシデントもありながら準優勝。「ケガをした状況の中でも戦えた。技術的に成長していると感じた。コンディションが整えば、優勝できる力はついてきた」と穴井は語っていた。

 

小よく大を制す

 男子73kg級の小田桐美生(国士舘大4年)は昨年の全日本優勝大会制覇の立役者である。身長166cmは73kg級の選手としては小柄な部類に入るが、“小よく大を制す”とばかりに、決勝戦で4階級上の相手に一本勝ちを収めた。

「投げて一本を取って勝ちたいという思いはあります」と小田桐。国士舘大で彼を指導する吉永慎也監督に話を聞いた。

「小田桐は相手の懐に入り、投げることに長けている。身長が低い分、意識しなくとも自然と懐に入れるのは特長です。技術的には中学・高校で土台ができていたので、私は気付いた点をアドバイスする。私自身、体が小さくて苦労したことが多かったので、小田桐にはその話をしてきました」

 

 小田桐は厳しい稽古で知られる国士舘大で鍛えられた。「後半のスタミナは大学に入って伸びたと思います。吉永先生からは『我慢』とよく言われています」。スタミナ強化のため畳の上だけでなく、ランニングトレーニングも欠かさなかった。

 吉永は語る。「例えば全日本学生体重別でベスト8に入る選手たちに技術的な差はあまりない。そうなると必然的に競った展開になり、延長戦に突入するなど長丁場の我慢勝負となることが多い。そこで勝つためには、今の時代に合っていないと言われるかもしれませんが、根性と我慢が必要です。小田桐たちには『苦しくなった時を想定して稽古をしろ』と言ってきました」

 

 小田桐は稽古で全7階級の選手と乱取りを行う。「73kg級の選手にしては珍しい。通常は60kg級から90kg級の5階級くらい。7階級を相手に稽古している選手はあまりいないと思います」と吉永。そんな小田桐の目標はオリンピック出場のみならず、“小よく大を制す”を極めることだ。

 

「講道館杯で上位に入りたいですし、オリンピックも目指していますが、将来は全日本選手権で活躍したい」と小田桐。無差別級の日本一を決める全日本選手権への挑戦について「上の階級の人と戦うと、挑戦者として思い切ってできる。試合で投げられないと、ワーッと観客が盛り上がる。そこがすごく楽しいんです」と目を輝かせた。

 

突き抜けようとする大器

 最後に紹介するのが、東海大の主将を務める男子100kg超級の中村雄太(4年)。自ら「泥臭さが持ち味」と言うように、派手な戦い方を見せる柔道家ではない。「綺麗に一本を取ろうとは思っていません。指導でも何でも勝つということにこだわっています」

 

 21年、東海大大阪仰星高校から入学した中村。「1年生の時は全く歯が立たなかった」と先輩たちに胸を貸してもらった日々を振り返る。東海大の上水研一朗監督は彼の歩みを「一歩一歩積み上げてきて、少しずつ自信を付けてきた」と語り、続けた。

「彼の長所は背伸びをせず、一つひとつ努力を積み上げていけるところ。やるたびに課題が見つかったり、失敗することもある。そのたび、私は厳しく指導する。そのたびに真摯に取り組んでやってきた」

 コツコツと積み上げることができるのが中村の強みだが、欠点もあった。それは自身を過小評価してしまうことだ。上水は語る。

「突き抜けた存在になろうとする欲が薄かった。“僕なんて”“これぐらいで”“ほどほどに”。それではダメなんです。彼には『“突き抜けてやろう”という意識を持ちなさい』と伝えました」

 

 だからこそ上水はあえて責任を背負わせた。最終学年となった中村に主将を任せたのだ。その理由を上水は説明する。

「実質彼が一番強い。“オレがチームを引っ張らない”という思いがなければその組織は強くならない。まとめ役は他に任せて、自分は競技に専念するなんて甘い集団にはしたくない。一番強い者が責任を取れる。そういう集団が本当の強さを持つんです」

 全日本学生優勝大会で最多27度の優勝を誇る常勝軍団の主将は誰にでもできることではない。歴代主将はウルフ・アロン(パーク24)、村尾三四郎(JESグループ)らオリンピック、世界選手権のメダリストたちである。

 

 中村は「今まではのびのびとやらせていただいた。主将という立場になって、プレッシャーを感じ、責任感は強くなったと思います」と精神面での成長を口にする。全日本学生体重別に臨むにあたっては、「東海大主将として負けられない」と気を引き締めた。

 

「オリンピックを目指せる選手になっていきたい」と中村。代表戦線に加わるには、まず講道館杯での結果が求められる。100kg超級のライバルには、パリオリンピック代表の斉藤立(パーク24)のほか、影浦心(JRA)と太田彪雅(旭化成)ら東海大OBがひしめく。「先輩たちに負けず、頑張って優勝したい」。22歳は力強く言い切った。

 

 

BS11では今回紹介した4選手が出場の「全日本学生柔道体重別選手権大会」の模様を10月13日(日)20時から放送します。男子の解説はリオデジャネイロ五輪100kg級銅メダリストの羽賀龍之介選手、女子は世界選手権パリ大会金メダリストの佐藤愛子さんが務めます。男女階級別による大学日本一(個人)を決める大会に臨む選手たちの戦いをお楽しみください!

 

(取材・文/杉浦泰介、写真/大木雄貴)

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